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「長太郎、お前そのペンダントいつもしてるよな」
「あ、宍戸さん」
「ソレ、何なんだ?」
「コレですか?コレは…おまもりです」
俺が入学したての頃は、まだこのクロスのペンダントはしていなかった。
それは、まだ1年生のとき。初めて試合に負けた俺は、悔しくてくやしくて、皆が帰った後も残って練習していた。
「長太郎くん!」
「はっ、はい!?」
「試合…、惜しかったね」
「あ…はい」
その人は俺と目が合うと、いきなり俺の名前を叫んだ。(何で名前知ってるんだろう…)
彼女は初め驚いたような顔をしたが、すぐに悲しそうに笑んだ。
…さっきの試合、見てたのか。
「こんな時間まで練習?」
「俺が負けたのは、練習不足だったからだと思うんです」
「頑張ってるんだね。で、そんな貴方にペパーミント!!」
彼女はにっと笑って、トタトタと俺の方に駆けてきた。
小さい彼女は、多分平均より背の高い俺に届くようにと目一杯背伸びをして、俺の首に何かを掛ける。(勿論ペパーミントなんかじゃない)
胸元に落ちてきたのもは、小さなクロスだった。それが何か分かるのに、大して時間はかからなかった。
「ペンダント…ですか?」
「うん。私が亡くなったお祖母さまに頂いたものなんだけどね、お願い事がとってもよく叶うの。すっごく頑張ってる長太郎くんですもの、きっと神様だってちゃんと見ていて下さるわ!」
「え、そんな大切なもの、俺がもらってもいいんですか!?」
「長太郎くんがいいなら、もらって?」
見ず知らずの人にいきなり「もらって」と物を押し付けられたら、普通なら断るだろう。でも何故か彼女はそんな気持ちにならない。
俺は、そのクロスのペンダントを受け取った。軽いし、部活にも差し支えないだろう。
「それじゃ、またね!」
「え、あっ、ちょっと!!」
彼女は名前を聞く前に、走り去って行った。
…まぁ、明日宍戸さんにでも聞いてみようかな。
「あぁ、ソイツなら俺と同じクラスの苗字名前だろ」
宍戸さんに聞くと、あの人のことはすぐ教えてくれた。
…あの人先輩だったんだ。(敬語遣っておいて良かった!)
その日から、苗字先輩はテニス部にちょくちょく顔を出すようになった。
「長太郎くん!」
「あ、苗字先輩っ」
先輩との会話は他愛の無いものばかりだったけど、それでも俺は楽しかった。
苗字先輩が笑えば、俺も嬉しい。先輩にはずっと笑っていてほしいと思った。
「どうしよう、もうすぐ閉館だ…!」
その日、俺は図書館に本を返さなければならないことを、忘れていた。
閉館まであと5分。図書委員くらいいるよな。
「失礼しま…あ、」
カウンターには、体を突っ伏して眠っている苗字先輩がいた。先輩って図書委員だったんだ…
いつも笑っている先輩はとても可愛らしいが、眠っている先輩は普段より大人っぽくて、俺はつい見とれてしまった。
「先ぱ…」
その美しい頬に、そっと手を添える。
薄く開いたピンクの唇に、俺は吸い込まれるようにキスを落とした。
(ッ、今、俺何した!?)
「…長太郎くん」
「っ、先輩…起きてたんですか?」
「んーん、キスされて目が覚めた」
「すっ、すいませ…」
今、俺は真っ赤になっているんだろう。顔が熱い。
先輩はそんな俺を見て、くすりと笑った。
「長太郎くんなら構わないわ。それに、王子様のキスで目覚めるなんて、素敵じゃない」
「でも、っ」
「私、長太郎くんがすき」
普段の笑顔とはまた違った顔で笑う先輩が美しくて、俺の理性は、いとも容易く崩れ落ちた。
「先輩…」
「長太ろ…、んっ」
持っていた本が、ばさりと音をたてて床に落ちる。
俺は先輩をカウンターに押し倒すと、貪るように口付けた。
時折先輩の口から漏れる甘い吐息に、俺は身体の奥の方の熱いなにかを掻き立てられる。
「俺も先輩が好きです」
「長太郎くん、っ…」
「苗字先輩ッ」
「名前で、呼んで…?」
「名前、先輩」
「長太郎くん!」
「あっ、名前先輩っ」
「さて、邪魔者は退散すっかな」
「さすが宍戸くん、気が利くじゃのね!」
2年になって、宍戸さんとダブルスを組んでから俺は一回も負けたことがない。
やっぱりあのおまもりが効いているのかもしれない。
「どう、あのおまもり効いてる?」
「もうバッチリと」
眠る君に
(欲情してしまった)
Title by:meg