反逆アイロニィの涙 | ナノ
ふ、と、思うときがある。
時間は、私達を置き去りにしても猶、進むことを止めない。時々、世界に取り残されたのではないか、と。世界から排除されたように。つまはじきを喰らったように。
世界は私を置いて過ぎ去っていく。世界に、私は「無関係」だと。世界に、私は「不必要」だと。
はっと目が覚めた。
この部屋も、幾分か見慣れてきた。あの日から一週間以上経った。私はアリスの可能性があるということで、アリス学園で暮らすことになった。どうやって来たかも分からないので、家に帰れないという理由もある。まだアリスが何か分かっていないうちは、星階級も決められない。そのため部屋が決まるまでは、美咲の部屋に居候させてもらうことになった。
「……さむ」
外はまだ薄暗い。凄く悲しい夢を見た気がする。また寝付く気にはなれなくて、私はカーディガンを一枚羽織り、美咲を起こさないようにそっと部屋を出た。ベアの小屋にでも行こうと、コッソリ寮を抜け出す。寮を出たところで、私のものとは違う足音が聞こえてきた。やばい、バレたかも…。
「……陽魚?」
「え……?…殿っ?」
名前を呼ばれて恐る恐る振り返ると、そこには思わぬ人物がいた。私以外に起きていた人がいたとは思わなかった…。
「任務の帰り?」
「おー。俺もまだ一応高校生なんだからもっと早く帰らせろっての」
殿は徐にポケットに手を突っ込み、煙草を取り出した。ソレを口にくわえ、火を点ける。いくら女好きでロン毛で殿でも、本人も言っているように一応高校生だ(多少言葉が辛辣なのは日頃の行いのせいだ)。でもまぁ私も夜中に寮を抜け出しているわけだから、五十歩百歩というものだろう。
「で、陽魚は何してんの?」
「んー…、目が覚めちゃったから」
「嫌な夢でも見たか?」
ぎくりと一瞬、心臓が跳ねた。まだ知り合ってから一週間ちょっとだが、この人は鋭いと思う。女好きでナンパでロン毛でオッサンで煙草も吸ってるけど、やっぱりこの人は凄い。と思う。嫌らしくなく、すっと心に語りかけてくるみたいに響く。あー、駄目だ、ちょっと泣きそう。
「嫌っていうか、よく覚えてないんだけどね。すっごく悲しい夢を見た、気がする…」
「へぇ。ま、此処には俺しか居ないし、泣きたかったら泣いたらいいんじゃない?」
「……ばか」
それで何人の女の人をオトしてきたのだろう。私はその手には引っ掛からないけど。あ、でもやばい。泣きそう。
何に対して悲しかったのか全く覚えていない。大切な、本当に大切な何かを失った夢。でもその大切なものは何だったんだろう…。そのあとはよく覚えていない。気付いたら美咲の部屋で寝ていた。
結局どんな夢を見たかは思い出せなかったけど、少しだけスッキリした。やっぱり殿は凄いなぁと思う。女好きだけど。
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