夢 | ナノ

人魚の入り江


(俺の彼女は、実は人魚なのではないか・・・・?)



「また転んだのか」

「蓮二……私、走るのは苦手…」



柳の彼女は、運動はからっきしだ。走らせれば直ぐ転ぶ、ボールを使わせれば直ぐに顔面直撃。逆に、これはもう天性の才能なのではないかと思うほどの運動オンチである。
そんな彼女にも、唯一誰にも負けないスポーツがある。



「名前は一度、水中で生活してみてはどうだ?」

「蓮二、それは冗談なのかな…?」



水泳。
それだけは誰にも負けないと、胸を張って言える。
実際、名前が水泳部に入部してから、今まで誰にも彼女の記録は塗り替えられていない。



「俺は本気だぞ。泳いでいるときの名前はとても綺麗だ」

「れっ、蓮二…っ」

「俺のデータに狂いはない」



水を掻き分け進んでいく名前は、水と一体化しているかのように滑らかに伸びていき、足には尾びれが生えているかのように力強く水を蹴る。
無駄のない洗練されたその泳ぎは、水の抵抗を一切受けていないかのようだった。
その姿は、まるで愛する王子を求めさ迷う、人魚の如く美しい。



「怪我なんてして大丈夫なのか?もうすぐ大会なんだろう?」

「うん、これくらいヘーキ。有り難う、心配してくれて」

「いや、大丈夫ならいいんだ」



柳は名前を強く抱き締めた。

人魚は人間になるために、声を引き換えにして足を得た。だが、その恋は叶わず泡になって消えてしまう。
人魚は美しく、一途で、それ故に儚い。
水中を進む名前はとても速く、あっさりと手から滑りゆくようで。そのうち泡となって消えてしまいそうで。

名前が泡となってしまわぬよう、その存在を確かめるように柳は強く抱き締める。



「大丈夫だよ、蓮二。私はずっと、此処に居る。蓮二が離さなければ、私はずっと隣に居る。」

「俺は名前を離したりはしない」

「その確率は?」



「100%に決まっている」



人魚が逃れて仕舞わぬよう、泡となって仕舞わぬよう、その尾びれに足枷をはめておこう。
鎖の繋がるその先には、王子よりも眩い存在。
離さなければ、此処に居る。求めていれば、隣に居る。

それは戒めの枷ではなく、繋がりを示す、愛の鎖。





(あの入り江は、人魚と王子の秘密のテリトリー)


Title by:meg
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過去のだけど気に入っているので引っ張り出してみました。
蓮二大好きです。ぎゅっと抱きついて頭を優しくくしゃってされたい(願望)


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