どうかどうか、幸せの確信を | ナノ


広間には幹部の面々と私(私は自室にいたのだが、土方さんに「お前も来い」と言われたのだ)、それから見知らぬ少年。昨晩此処へ連れてこられたらしい。
私は平助と左之さんの間に座り、総司くんにからかわれている少年を見る。髪は高い位置で結われていて袴を履いてはいるが、身体の線や仕草を見ても女の子にしか見えない。それでも幹部の人たちは男の子だと思っているようだった。



「おい、てめぇら。無駄口ばっか叩いてんじゃねぇよ…」



土方さんの呆れた声が響く。総司も大人しく口を噤んだ。私は土方さんに「大事な会議をするから」と、広間に来るように言われた。だが、今までの雰囲気はとても会議をしているように感じられない。と、珍しく平助が軌道修正した。



「でさ、土方さん。…そいつが目撃者?」



普段の平助からは感じられない、低く冷めた声だった。女の子(もう私の中では女の子ということで確定した)がビクリと肩を震わせたのが分かる。
総司くんの報告によると、彼女は昨晩羅刹隊が浪士たちを殺しているのを見てしまったらしい。そこで、巡察に行っていた土方さん、総司くん、一くんと遭遇した。彼女を生かすか殺すか、そのための会議が今行われているコレだ。



「…さて、本題に入ろう。まずは改めて、昨晩の話を聞かせてくれるか」



近藤さんが一くんを見やる。小さく頷いた後、簡単に昨晩の説明をする。その内容は、少なからず彼女を助けようとしていることが窺える内容だった。それでも彼女はキッパリと言い切った。



「私、何も見てません」

「あれ?総司の話では、おまえが隊士どもを助けてくれたって話だったが…」

「私は、その浪士たちから逃げていて…、そこに、新選組の人たちが来て…。だから、私が助けてもらったようなものです」



新八さんがカマをかけると彼女はあっさりとボロを出した。言い終わってから気付いて息を呑むが、もう遅い。幹部の空気が、一気に鋭いものへと変わる。隣の左之さんが小さく溜息を吐いたのが分かった。



「おまえ、根が素直なんだろうな。それ自体は悪いことじゃないんだろうが…」

「ほら、殺しちゃいましょうよ。口封じするなら、それが一番じゃないですか」

「私は、副長のご意見をうかがいたいのですが」



山南さんに意見を求められ、土方さんは眉間に皺を寄せる。名前でなくて役職名で呼ばれたことが、さらにその皺を増やしているのだろう。そしてその目を私に向ける。



「みなと、お前はどう思う?」

「……え?」

「お前はどうすればいいか、知ってるか?」



土方さんが求めているのは、そういうことだった。

土方さんは、私なら何か知っているのではないかと思ったらしい。しかし、未来には新選組隊士が血に狂っていたなどという資料は残っておらず、私には対処法は分からない。



「残念ながら、私はこのことについては何も知りません…」

「そうか…。」



土方さんが眉間の皺を増やし、視線を落とした。私はでも、と続ける。



「私個人としては、殺してしまうのは忍びないと…。それなら私も死ぬべきです」

「でもっ…お前には生かす理由が…」



私の一言に、平助が身を乗り出す。確かに私は未来の情報を持っているという理由で生かされた。新選組の情報も持っているから、機密を漏らされては困るから、保護するという形で。でも、それならわざわざ私を生かす必要はない。



「新選組の機密を漏らしたくないのなら、殺してしまえばいい。私だって「彼ら」を見ている。私がここから逃げ出さない可能性だって、ないわけじゃない」

「…分かった、分かったから。……悪かったな、お前にこんな話して。左之助、部屋まで送ってやれ」

「ああ。…立てるか、みなと?」



土方さんは、自分を殺せばいいという私を見て一瞬目を見開いたあと、申し訳なさそうに僅かに眉尻を下げた。私は溢れ出す涙を止めることを出来ずにいた。

もう、私の目の前で人が死ぬのは嫌だった。誰も死んで欲しくないだなんていうのはただのエゴイズムだが、それでももう人が死ぬのは嫌だった。
私は左之さんに手を引かれ、広間を後にした。手首に感じる温もりが、心を落ち着かせてくれる。部屋へ着くと、左之さんは私の頭をゆっくりとなでる。一定のテンポが心地よく、私は目を閉じる。そのまま眠ってしまうまで、その手の温かさを感じていた。




幻想椿、頭を垂れよ。


20101217


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