どうかどうか、幸せの確信を | ナノ


目の前には黒く焼け焦げた木材の山。その独特な臭いがつんと鼻につく。あちこちで、まだ燃え尽きていない木片がパチパチと燻っている。それらは全て、家屋だったもの。
もうこの村には一軒の家も残っていない。もう誰一人生きてはいない。
その事実を知っても、涙は出てはこない。もう枯れてしまったのだろうか。



「…おじいさん、おばあさん、」



今までありがとうございました。

せめてお骨だけでも拾ってあげたかったが、この雑然とした木材の中から探し出すのはもはや不可能である。どうして神様は私も一緒に死なせてはくれないのだろう。余程嫌われてしまっているのだろうか。

本当に、今度こそ本当に一人ぼっちになってしまった。
今日は月も無い。いつもならあちこちの家から灯りが零れているが、全て燃え尽きてしまった今では灯りなど無くなってしまった。そんな真っ暗な世界に、一人放り出されてしまった。



「まるで私の未来も真っ暗って言われてるみたい」



でも、実際にそうなのかもしれない。ほとんど知らない土地で、頼れる知り合いなんていない。人の命なんてものは、こうもあっけなく尽きてしまう。これから先にあるのは、真っ暗な死だけなのかもしれない。

不意に、後ろでパキンと細い小枝が折れる音がした。
もうこの村には生きている人なんていないのに。私は弾かれたように振り返った。小さく燻る火に照らされ、ぼんやりと見えたのは、浅葱色の羽織と赤黒い血がべったりと付着した刀。そして、白い髪と血に飢えた真っ赤に光る目。見た目は人間と同じであったが、纏う空気が人間のそれとはまったく違っていた。私はそれをただぼんやりと見つめる。



「……ひひっ…」



それの口がニタァと厭らしく歪む。新しい玩具を見つけた子どものように嬉々とした目で、刀を振り上げたそれは、一歩一歩私ににじり寄って来る。嗚呼、殺されるのか。これで私も死ぬだろう。もう生に未練も執着もない。死後の世界の方が、きっと知り合いもたくさんいる。未知の世界で一人ぼっちで生きていくのは、私にはずっと辛い。痛い。怖い。これで、良いのだ。



「血ィを寄こせ…ひひっ……」



私は何もかも諦めて目を瞑った。刀の切っ先は、きっともう目の前にある。あれが刀を振り下ろせば、私も漸く死ぬのだ。しかし幾ら待てども痛みも衝撃もこない。ゆっくりと目を開くと、そこに立っていたのはさっきのあれと同じく浅葱色の羽織を纏った、この村を覆った炎のように真っ赤な髪の男だった。




その心が黒に染まる前にどうか感情を、

(闇に覆われてしまう前にどうか死なせてください)(その炎で包まれてしまえたら、)




20101130
title:DOGOD69


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