7

堕ちた光、至高の闇


 リーファは未だに目を覚まさない。拷問魔法なんて、死んでも受けたくなかったし、何より命の危険を感じたため、思いっきり鳩尾に一発お見舞いしてしまったのが良くなかったらしい。それでも、死ななかっただけ益しだ。
 リーファ・シャーナ・シュライゼ。
 確かに生きようという意志は強いし、聡明とは言い難いが、頭が悪い人間ではない。しかし、長身で、誰もが羨むような美貌と、氷のような冷たい覇気を持った男とは程遠い。
 目の前で眠るのは、背は低くも無く高くも無く、しかし、牢獄生活の所為か肉付きの悪い細身の体を持った若い女。斬ろうと思えばすぐに斬れるし、体だけなら思い通りにできるだろう。
 シュウは、この体の中に入っているのが、あの男の魂だとは信じられなかった。平和主義で、目に見えるものしか見ていないような女が、世界しか見ていない男の魂を持っている。それは、酷く滑稽なものに思えた。
 普段飄々としている所為か、リーファは意外と表情に乏しい。それが、苦しそうに歯を食いしばり、諦めたように微笑んでいた。それは、普段は決して見せない表情で、おぞましさとは違う何かを感じた。
 シュウは、枕に広がるくすんだ茶色の髪を撫でた。髪には、小さな小枝や、蔓の欠片がついているし、在り来たりの色で、綺麗だとは言い難い。それでも、前髪を掻き分けてやれば、くぐもった声を出す。気絶しているわけではなく、本当に眠っているらしい。一々反応を返してくるその様子に、面白い、とシュウは思う。
「さっさと、起きろよ」
 そう言いつつ、無理には起こさない。シュウは、立ち止まって、待たないといけないことを知っていた。この王国のことは、後回しだ。
 窓から見える夜は深く澄み渡り、王宮の明かりは華やかだった。



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