5
堕ちた光、至高の闇
「お前は、精神まで侵されたのか?」
シュウの声は、静かだった。
「セフィリス・サラヴァンは死んだ」
セフィリス・サラヴァンは死んでいる。 リーファは頭痛と熱くなるだけの体を抑えながら、はっきりと言った。ここにいるのは、リーファとシュウであって、セフィリス・サラヴァンとバルベロではない。
「そうやって、逃げ続けて」
シュウは顔を下に向け、ぐらりと立ち上がった。座っていた椅子は、絨毯があるため、音も立たない。
「お前は、あの男とどこが違う?」
目の前に黒の双眸が映った次の瞬間、抵抗の余地もないような力で、椅子から突き落とされ、絨毯に叩きつけられる。立ち上がる間も無く体を押さえつけられ、首に手をかけられる。
すぐに首を絞められる。死なない程度ではあるが、逃れられぬ黒と、息の苦しさと頭の痛さと体の熱さは、リーファを極限にまで追いやった。
「目を……逸らして……いたのは……君だ」
リーファはありったけの力を振り絞って、己の声とは思えぬほど掠れきった声を出した。
「違う」
シュウは、有無を言わせぬような強い声で言った。しかし、それは、決して冷たくはなかった。声は、酷く淀んでいた。名もない感情に支配されながらも、なお透き通っている黒の瞳とは対称的に。
「そう……やって……バルベロなら……絶対しないこと……やって……」
バルベロは、白の似合う女だった。どこまでも真っ直ぐで、素直で、優しい人間だった。だから、シュウは、女遊びに手を染めたり、言葉使いを荒っぽくしたり、破壊を好んだりするようになった。シュウはバルベロに囚われている、とリーファは思っていた。
そして、続ける。
「バルベロ……だけ……じゃなくて……覇王にも……」
シュウは、未だ覇王に固執している。恨み続けている。リーファはそう思った。
リーファがもう何も言わないと思ったのか、そこで漸く、シュウが口を開いた。
「リーファ、お前は、俺の人生に口を出す権利はないはずだ」
シュウははっきりと言った。ご尤もだ、とリーファは思った。
「確かに……」
リーファは自嘲した。しかし、もう限界だった。リーファに静止の力は残っていなかった。諦めたような笑みが自然と零れ、視界が滲んでいく。
「プロメテウス・シ……」
プロメテウス・シン。それは、内臓を破壊するかのような痛みを走らせる拷問魔術。
リーファが最後に見たのは、目を見開いたシュウだった。