2

堕ちた光、至高の闇


「そして、私は前世で死ぬ直前、ある女騎士を殺した」
 表情一つ変えない神を見据えながら、リーファは続けた。
「彼女の名前はバルベロ・インファイン。前世の私に惚れ、前世の私を裏切り、前世の私に甚振り殺された女騎士。バルベロは、前世の私を愛したが故に、神によって輪廻から外された。でも、バルベロの魂が消滅しきる前に、セフィリス・サラヴァンが無理矢理転生させた」
 罪深い魂は輪廻から外される。それが、輪廻に戻ることは、二度と無いはずだった。しかし、セフィリス・サラヴァンの魂は、不可能を可能にした。
 天の深い底に堕とされた魂は、自力で這い上がったのだ。転生する意志のないバルベロの魂を伴って。
「前世の私と彼女、どちらかをシャーナの娘に、どちらかを、憎き神の王国の第一王子に」
 この世へ繋がる二つの穴。セフィリス・サラヴァンは二つを見比べた。
「前世の私は、彼女を心から恨んでいた。だから、自分の身代わりに転生させた。取るに足りない力の女騎士の魂など、あなたがたが気にも留めないことを予測して。そして、あなたがたは、前世の私の思惑通りに動いた。権力欲の塊であるだろう覇王が王族に、覇王が恨んだ女がシャーナに、転生したと思い込んでいた」
 リーファは、静かに、そして、告発するかのように言った。誰を、という問いには答ええられない。告発されるべき者は、一人ではない。しかし、存在しているかどうかも分からない。
 セフィリス・サラヴァンの魂を持っていると分かれば、異端視されるのは当然。しかし、王の第一子という中、殺すことはできない。それ故、生き地獄を味わうことになる。
 リーファは、シュウが置かれた状況が、具体的に分かるわけではない。しかし、容易に想像できる部分は大きかった。
「セフィリス・サラヴァンの魂を持っているのは、私。そして、バルベロ・インファインの魂を持っているのが、ウェルティア・レンシス……つまり、シュウ」
 リーファは、振り返らなかった。シュウと目を合わせることはできない。
「私には記憶が無かった。それは、セフィリス・サラヴァンは、自分の魂を自分で縛るなんてことをしなかったから。でも、バルベロの魂を蝕むため、シュウには前世の記憶を持たせた」
 普通、神の手によって、魂の記憶は消される。しかし、セフィリス・サラヴァンとバルベロの魂は、神の手に渡っていない。
 だから、セフィリス・サラヴァンが、死してなお、人の人生を狂わせ続けることが、可能だったのだ。それは、計算され尽くしていて、一点の不可思議も無い。しかし、それは、呪いのようだった。
 バルベロの魂を持ってしまった男の人生を滅茶苦茶にしたのも、彼の掛けた呪いの一つだったのだろうか。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -