5

白亜の宮殿


「ウェルティア様は……」
 レナーサの口から漏れた言葉に、リーファは静かに息を吐いてから言った。
「暫くは、協力者として、私が責任持って面倒見るよ」
 とりあえず、リーファはシュウの暴走を止めなくてはいけない。シュウに善悪の判断を任せてはいけない。リーファとシュウは、支え合う、などという大した関係ではないが、分担ではなく、協力をしている。
 リーファの言葉に、そうですか、とレナーサは微かに笑った。
「それより、ヴァルシア王太子は、あんな兄持っているんだから、これから苦労するよ。レナーサが支えてあげないと」
 リーファはそう言って、笑いかけた。
 シュウが何を考えているかは分からないが、王家に恨みを持っているのは事実。追放された恨み、母を蔑ろにされた恨みなど、想像はいくらでもできるが、結局のところ分からない。
 どちらにしろ、今のままでは、ヴァルシア王太子は危険だ。それは、物理的にも、そして、精神的にも。
「ヴァルシア様は、御強い方です」
 レナーサの声は静かだった。
 リーファは、レナーサの青の双眸から目を外すと、天を仰ぎ見た。高い天井には、見事な装飾。それ故の圧迫感。
「レナーサ、王宮は、に続く言葉、思い出してよ。私は学が無いから分からない。でもさ……」
 リーファは、この王宮の空気を吸った。そして、眠る何かを呼び覚まされたような感覚と共に、感じるのだ。
 魔窟の如き雰囲気を。


 青い双眸は、静かに伏せられた。しかし、それは再びゆっくりと上げられる。
「昔から、私はクィルナのお姫様として、のうのうと過ごす気はありませんでした」
 静かな一言に、全てが篭められていた。リーファは、その一言で、漸く、レナーサを理解した。
 聡明な人だ、とリーファは思った。自分の気持ちを、客観的に認識できる人は、あまりにも少ない。しかし、レナーサはそれができているのだ。
「あんたの気持ちは分かったよ。だから、ウェルティア王子に憧れていた」
 レナーサは、ずっと反発していたのだ。しかし、それを悟らせなかった。夢見がちなお嬢様を装っていた。おそらく、意図的ではないのだろう。しかし、それはあまりにも上手くできすぎていた。
 リーファだって騙されていた。しかし、今は分かる。
「でも、今のウェルティア王子、つまり、シュウという人間に憧れているわけではないよね」
 言われなくても分かっている、という声にならない言葉が聞こえてくるようだった。
 レナーサだって気付いていたのだ。自分が、ウェルティア王子に憧れているわけではなくて、ウェルティア王子に憧れている自分に固執していたことに。
「私は、未婚だからよく分からないけど、ヴィラルでもユーラでも同じだと思う。王族なんて特にそうだよ。こんな王宮で、一人で立つのは難しい」
 リーファは知らないようで知っている。この王宮の雰囲気。張り詰めた空気。入ったばかりの時は気付かなかった。しかし、刻々と感じ取れる物が増えてきた。
「綺麗で優しくてレナーサのことを大切に思ってくれているのなら、素晴らしい人だと思うよ。レナーサ、支えてあげなよ」
 レナーサは控えめに笑った。リーファは、ほっと胸を撫で下ろす。
 レナーサは聡明な王妃だ。リーファは、レナーサの生まれ持った魅力だけではなく、彼女が作り上げた魅力も知っている。しかし、リーファは、大切なことに気付いていなかった。



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