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白亜の宮殿


「先日と……今日もありがとうございました」
「気にしないで。私も、今日は迷惑を掛けてごめん」
 リーファが謝ると、レナーサは安心したかのようにくすりと笑った。そして、その笑みをゆっくりと引き下げてから、再び口を開く。
「ところで、リーファは、何故王子と一緒に?」
「旅に道連れされた。奴の目的に賛同できないわけではないから、力を貸している。王子ってことも知らなかったんだけどね」
 リーファは、さらりと言った。すると、安心したようにレナーサが微笑む。
 リーファは、そんなレナーサを見た。
 殺されかけたのに、何故、想えるのだろう。リーファは不思議で仕方が無かった。
 美しく優しい王太子妃。自分を守ってくれた大切な友達。リーファに身分を尋ねなかった、数少ない人。リーファは。レナーサの力になりたいと思うし、レナーサが不幸になるところは見たくない。
 リーファは、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと息を吐いた。そして、重い口を開く。
「シュウはやめておいた方が良いよ。碌な奴じゃない」
 えっ、と小さな声が紡がれる。宝玉のような青い双眸が丸くなり、リーファに次の言葉を求めている。
「シュウは女を幸せにはできない。唯一人の女を、満足に愛すことすらできないだろうね」
 レナーサの目は僅かに伏せられていた。リーファは息を呑む。
 僅かに、時間が止まったような空白ができた。しかし、それはすぐに終わってしまう。
「やってみないと分かりません」
 鮮やかで遠浅の海のような青は、いつになく深い。声は凛としていて、張りがある。それは、美しかった。
 しかし、リーファは譲れなかった。
「シュウは、ただの色好みの男とは違うんだよね。あいつは女遊びはしても、女に惚れることは無い。多分、女遊びをする自分に固執しているだろうね。理由は分からないけど」
 色好みと雖も、決して飲まれないタイプだ。何に飲まれているか。それは、外からか決して見えない。
「レナーサ、君は、誰よりも幸せになることが仕事だろう。王妃様が幸せそうな顔をしているのが、一番なんだよ」
 心の底から幸せそうに笑い、民を愛する王妃。理想の姿を押し付けるのは良くないが、レナーサは、それを為さなくてはならない。彼女がクィルナに生まれ、レンシスに名を連ねてしまった以上は。
「身分どうこう以前に、レナーサは、国の人々を励ます力を持っていると思う。私の魔術と同じで、レナーサはレンシスという力を持っている。それは、クィルナとか、そういう身分の力じゃない」
 レンシスは最早身分ではない。一つの大きな力だ。
「それに、ヴァルシア王太子は、あなたにしか幸せにできない」
 リーファのその言葉で、下を向いていたレナーサは、漸く顔を上げた。



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