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白亜の宮殿
真っ直ぐと前に進み、門の近くにいた騎士に、先程剣士の連れだと言うと、あっさりと中に入れてくれた。そのまま騎士に案内をさせる。びくびくされると、不憫に思えないことも無かったが、身分で人を判断する者は嫌いということもあり、リーファは黙って案内させた。
そうすれば、友人に斬りかかる連れを発見。即魔術を放ったわけだ。
「レナーサ・レンシス・クィルニアに町で会った。それで、友達になった」
気絶してしまっている騎士や、王太子夫妻を無視して、刀を抜いたままの剣士に歩み寄る。
「手前は……まるで、どこかの町娘に会ったみたいな勢いだ」
シュウは、怒っている、というよりは、呆れている、という表情だった。
「まぁ、そんな感じで、話だけ聞いた」
騎士たちを一瞥してから、リーファは笑った。
「勘だったんだけどね。ただ、慈しみの光なんて、本当に似合わないね」
一番似合わない名前だ。国王夫妻が何を思ったこの名前を付けたかは知らないが、こんな人間になってしまったとは、それは、祈りよりも儚い願いだったのだろう。
「リーファ、手前、黙れ」
「じゃあ、似合ってると思ってるの?」
そんなはずは無いだろう、と声を荒らげるシュウを適当にあしらい、リーファはくるりと後ろを向き、レナーサに寄り添うように立っている男に、頭を下げる。
「殿下、御見苦しいところを御見せして申し訳ございません」
ヴァルシア・レンシス。この国の王太子。もう少しまともな謝罪の仕方もあるだろうが、王太子に対する振舞い方や、シュウの王宮での立ち位置も分からないリーファには、これが精一杯のことだった。まず第一に、自分が悪いことをしたのは分かっているが、自分のやった悪いことに自信が無い。
当然のことながら、心の片隅には、面倒臭そうに座り込んでいるシュウに対して、何で私がこんなことやっているんだよ、と言いたい気持ちはある。しかし、自分にも十分非がある。
丁寧に頭を下げた後、顔を上げると、王太子が不快そうに目を細めていた。
そして、真っ先に動いたのは、レナーサだった。
「ヴァルシア様、彼女は、町で私を助けてくれた私の大切な友人。今回の件でも、私の身を守ってくれた命の恩人です。どうか、お許しを……」
必死な表情で、レナーサは、夫に許しを乞う。やっぱり、かなり悪いことしてたんだ、とリーファは思った。兎に角、レナーサに申し訳ない。
「レナーサ、良いよ」
もうどうにでもなれ、という感じだ。とりあえず、レナーサに謝ってもらうのは申し訳ない。
「良くありません。王宮は……」
「王宮は?」
リーファは聞き返した。王宮は何なのだ。しかし、レナーサが、その問に答えることは無かった。
「レナーサ、彼女と兄上には、丁重な持成しをすることを約束するよ。兄上の連れのようですから、無礼を為すわけにはいきません」
ヴァルシア王子はそう言って、レナーサに微笑みかけた。