5

レンシス大聖堂


 セフィリス・サラヴァンを巡る一連の知識は、誰かの昔話で得たのだろうか。リーファは、思い出そうとしてみるが、そんな昔話をされた覚えは無い。
「セフィリス・サラヴァンに殺された女性です。名前は、バルベロ。彼に殺された女性の一人です」
「何で殺されたんですか?」
 リーファは尋ねた。バルベロについては、名前を知っているだけなのだ。
 すると、男は顔を傾け、ゆっくりと息を吐いた。
「彼は冷酷無慈悲な人でしたから」
 冷酷無慈悲。リーファが想像しているセフィリス・サラヴァンは、確かにその言葉が当てはまりそうだった。
「意味も無く人を殺すのでしょうか」
 しかし、リーファの想像しているセフィリス・サラヴァンは、意味も無くそんなことをしない。気まぐれに人を甚振り殺し、自分の評価を下げるようなことはしない。
 リーファは、壁を見渡した。多くの天使たちと、神々しい神の絵。そして、今は亡き醜い覇王と、虐げられた女性。どれもが滑稽に見えて仕方が無いのだ。
 そして、滑稽といえば、もう一人。
「それにしても、遅い。心配です。多分死ぬことは無いと思いますが」
 リーファは溜息を吐いた。シュウはそう簡単に死ぬような人間ではないが(魔術もほとんど効かないのだ)、どちらかというと、何をやらかしているかが心配である。
 しかし、目の前の男は別のことを心配しているかのようだった。
「最も恐ろしいのは、死です。彼ほどの者であれば、輪廻から外されてしまうでしょう。赦されぬ罪を背負えば、輪廻から外されてしまいますから」
 輪廻。それは存在するものなのだろうか。リーファには分からなかったが、信じられないわけでもなかった。
「リーファ嬢、彼を宜しくお願いしますね。決して悪い子ではないのです」
 物腰穏やかな微笑と共に向けられたのは、悲哀に満ちた瞳だった。
「根は良い人だと思いますよ」
 根拠は無い。しかし、分かるのだ。シュウは決して根っこからの極悪人ではない。
 何故かはリーファには分からない。ただ、今からやることは一つである。
「とりあえず、あの未成年に悪影響の剣士の様子を見てきますね」
 気をつけて、と言う男に、会釈だけ返すと、リーファは、さっさと門を潜った。
 広がる道は純白、目の前に聳えるのは、白亜の宮殿。異様な静寂に包まれた、美しき王都の象徴。



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