4

レンシス大聖堂


 男は微笑んだ。
「この国の建国史です。神に殺されたセフィリス・サラヴァンの築いた大帝国が分裂し、この国は生まれました」
 そう言って、天井の真ん中に高々と描かれた神と天使たち、そして地面に斃れる男を指差した。リーファは、神や天使はどうでも良かったが、斃れた男の方には目がいった。
 セフィリス・サラヴァンだろう。確かに、その大きな鼻や、小太りな体、大きな顔や垂れた頬は、美しいとは言い難い。
 しかし、リーファのどこで見たのか分からないセフィリス・サラヴァンの姿とは、大きく食い違っている。リーファの想像では、細身で、黒髪で黒眼で、怜悧な顔立ちをした若い男だった。容姿も端麗で、こんな絵のような苦々しい表情など欠片も見せず、どんな苦境でも、不敵に笑っていた。
「そして、この国は、神のご加護を受けたのです」
 男の声は、遠くから聞こえているかのようだった。
 この国の神のご加護などどうでも良いのだ。リーファの気になることは一つ。一体、自分がどこでそれを知ったのか、ということだ。
「セフィリス・サラヴァンは、忌むべき存在。覇道を貫いたセフィリス・サラヴァンは、神に殺されたのです」
 自分から聞いておきながら、穏やかな男の声を適当に聞き流すと、リーファは壁の隅に描かれた絵を指差した。
「では、この女性は?」
 銀色の髪の美女。白銀の鎧に身を包み、白い馬に乗っている。聖騎士か何かだろうか。しかし、それは美しい絵ではない。セフィリス・サラヴァンが、彼女の肩に、剣を突き刺しているのだ。
 剣が思いっきり奥まで突き刺されているのに、ほとんど血が出ていない、などということはどうでも良い。
 リーファは、セフィリス・サラヴァンと戦った女聖騎士を知っていた。バルベロという名の美しい聖騎士の名を。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -