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魔術師は、濁音を響かせて這い上がる


 温かい光に包まれた、木の洞。リーファは目を擦り、ゆっくりと息を吐いた。
 新鮮な空気と共に、吸い込まれるの鉄の臭い。リーファは目を細めた。
 さらに、すっと手を伸ばした時に、何やら生暖かい物に当たる。リーファが驚いて隣を見ると、そこには、派手な女物の着物が広がっていた。そのまま視線を上げていくと、シュウの顔があった。
 何故ここにいる、と思いながら、起こさないように、シュウの体を跨ぐ。
 寝息も立てないシュウの前に座り込み、洞の外を覗き込む。
 そこには、酷く凄惨な光景があった。腹や喉を斬られ、死んだ兵士や警備の者たち。地面は赤黒く染まっている。
 あまりの状況に、声を上げかけた時、ぐいっと左手を掴まれた。
「寝ているとでも思ったか」
 間髪入れずに銀色が光る。
 リーファは、喉元に突きつけられたそれを一瞥し、舌打ちした。
「全員殺したよ」
「何故殺した。殺す必要はなかっただろうに」
 リーファは声を荒らげることなく、静かに言った。すると、低い声が流れてくる。
「リーファ、世の中には色々な奴がいるんだぜ。何かを壊していないと生きていられない奴がいたって、おかしくない」
 そこで、シュウの言葉は、一度途切れた。
「破壊の旅に出ねーか」
「離せ」
 リーファは低く唸るように言った。
「手前の憎む身分制度も破壊するんだぜ」
 誘惑するような甘い声だ。しかし、それは狂気を孕んでいる。
「俺の最終目的は、この神聖レンシス王国の滅亡だ。だから、身分制度も壊れていただかないと困るんだよ」
 リーファは黙っていた。
「王家を守る全てを破壊するんだからな」
 シュウの顔は見えない。しかし、笑っているだろう、とリーファは思った。シュウは狂っている。
 しかし、リーファは、漸く口を開いた。
「右手に提案、左手に剣」
 リーファは、皮肉たっぷりの笑みを浮かべる。
 リーファは、この国に世話になった覚えはない。恨む気もないが、着いて行かないでいる理由もない。国の制度などは、シャーナである自分を縛るだけのものだった。
「その話、乗ろう」
 リーファは、悪い気はしなかった。
 すっと銀色だけが離れる。
「だが、無駄な殺傷は止めろ、良いね」
「ああ、良いぜ。約束してやる」
 その約束の真意は知れない。歌うような返答に、リーファは顔を顰めた。



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