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レンシス大聖堂


 白亜の宮殿の門の前に、聳え立つのは巨大な塔。その名は、レンシス大聖堂。
 神を祭り、神の代弁者たるレンシス、つまり王族の者たちを讃え、神を支える身分制度を擁護する。二十六の入り口と、礼拝所がある。
 シュウは、歩き続けた。そして、最も立派で、最も大きな門の前で立ち止まる。目の前には、ずらりと兵士が並んでいる。 門に記された文字は、「R」。美しい天使に囲まれた不思議な模様。地にはドラゴンが這いつくばっていた。差し詰め、悪役と言うところだろうか、と思い、リーファは醜く描かれたドラゴンに、仲間を殺された小さくて可愛らしい少女を思い出した。
 そんなことを考えていたら、兵士たちから、誰だ、何の用だ、ここがどこか分かっているのか、というお決まりの三点台詞を聞き、さらに異国風の服装から、どこの人間か、尋ねられる。
 リーファは、一歩引いたところから見ていた。
「王に言え、今帰った、と」
 結局、シュウは質問に答えなかった。さも当たり前のように、人の悪い笑みを浮かべながら、質問を無視するのは、流石に兵士も不憫だろう、とリーファは思った。
「何者だ?」
 めげずに尋ねてくる兵士の健気さに感心しながらも、リーファは何も言わなかった。
「ああ、ヴァルシアも呼んでおけ」
「ヴァルシア様を、呼び捨てになど……」
 金属音が鳴り響く。リーファは、目を細めた。うっかり参戦し損ねたのだ。
 しかし、リーファの心配に及ばず、シュウは無傷だった。それどころか、兵士たちを蹴り倒し(聖堂を血塗れにしない常識はあったらしい)、剣を突きつける。
「首を洗って待っとけ、と伝えろ」
 シュウの笑顔と刀に、腰を抜かした兵士たちは、走り去っていった。満足げに笑う男の後姿に、リーファは言い放つ。
「古い」
 言い回しが古いのだ。
「黙れ」
 口だけで笑いながら、シュウはさっさと門を開け、中に入っていってしまった。
 開け放たれた門から見えるのは、静かな白亜の礼拝所。宮殿に繋がる最短の道。光差し込む美しき壁に刻まれたのは、巨大な絵。
 リーファは、ゆっくりと足を踏み入れた。



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