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天使の宴
「ミュウ、リーファとシュウについていくから。絶対に置いていかないでね」
最初の方はしっかりとしていた声が、少し涙声になった。
「凄く怖かったの」
頑張ってそう言いきってから、ミューシアは、静かに泣き始めた。
それが何を意味していたかは明白だった。リーファとシュウが牢獄にいた時、ミューシアは、自分が置いていかれたと思ったのだ。結局、ビアンカが牢獄にいることを突き止めたようだが、それまで、不安だったのだろう。
ミューシアは、ずっと悟られないように我慢してきたのだろうか。泣くのを我慢していたところからして、その可能性も十分あった。リーファやシュウに、それを理由に置いていかれるのが怖かったのかもしれない。
ミューシアは、既に、仲間たちに置いていかれたことがあるのだから。
リーファは、置いていかない、とは言い切れなかった。しかし、放っておくわけにはいかない。すぐに駆け寄って、抱き上げる。しかし、ミューシアはリーファの腕の中で泣き続けていた。
「ヒュノピリア(眠れ)」
そんな時、歌のような詠唱が流れてきた。リーファは、くたり、と頭を腕に乗せ、眠りに落ちた小さな女の子の頭を、ゆっくりと撫ぜてから、ビアンカの方を見た。
「馬鹿なドラゴンだ」
ビアンカは、心底鬱陶しそうに呟いた。
「牢獄にいるって言っても、泣くだけだし、鬱陶しい」
リーファは、しっかりとミューシアを抱え、ぶつぶつと言うビアンカの隣まで戻った。
「はい」
リーファは笑顔で言った。
「はい?」
ビアンカは、間抜けな声を出してから、リーファの顔を見た。そして、視線を下げ、半ば強引に押し付けられた小さな女の子を見た。
「どういうことでしょう」
ビアンカは、怪訝そうにリーファを見た。
「おそらく、ビアンカが添い寝してあげたら、機嫌もだいぶ良くなるかと……」
「良くなりませんっ」
ビアンカが、顔を真っ赤にして、全力で否定する。しかし、リーファの笑顔は、既にニヤケ顔にまで達していた。
「何考えているんですか?」
ぐいぐいとミューシアを返そうとするビアンカを見て、リーファは思った。
そうか、微妙なお年頃なんだ、と。
「じゃあ、三人で川の字になって寝よう。ミュウを真ん中にしてさ」
「絶対嫌です」
ビアンカは力強く即答した。
しかし、リーファは徐に溜息を一回吐くと、微笑みながら、尋ねた。
「どうするの?」
ビアンカは、リーファの視線の先を見た。そこには、ビアンカの白いローブを掴んで、縋るようにして眠っている女の子がいた。
「はい、寝るよ。横になって」
リーファは、渋々横になったビアンカごと、そっと毛布を掛けてやる。ビアンカは、未だ睨みつけてくるので(二人だけは避けたいのだろう)、リーファは、ミューシアの隣に横になった。
木々の狭間から見える夜空には、星が散らばっていた。