3

魔術師は、濁音を響かせて這い上がる


 リーファは、シュウに、泉まで案内してもらった。服も汚いので服のまま浸かり、腕を捲くって体を洗う。
 右腕には、毒々しい字体で、Sの焼き痕がある。リーファは、消えることのないされを擦り、泥を落とした。
 そんな時、シュウの声が降ってきた。
「まさか、シャーナの者だったとはな」
 女の水浴見てたのか、ということと、やはりこいつもか、という思いが湧き出てくる。
「あなたには感謝してるよ」
 リーファは、声の降ってきた大木を見上げ。微笑んだ。やることはただ一つ。
 空気が収束した。
「エウリーナ・バルベリアン(堕ちた光)」
 光の魔術が炸裂する。音無き爆発は大木の太い幹を襲い、大木を倒す。
 静まり返った森の中で、リーファは、流石に容赦なかったかな、と思いつつ、やられてもしょうがないと思い直した。打ち所が悪くなければ、死んではいないだろう。大体、ああいう類の人間は、丈夫だと相場が決まっている、とリーファは納得した。
 しかし、リーファの心配は無用だった。
「魔術師……だから、シャーナでも殺されなかったということか」
「二ュクシア・ジャスティス(裁きの闇夜)」
 走ってくる男の足元の少し先を目掛けて魔術を放つ。男の足が止まった。
 土煙が立った。私はその間にジャブジャブと岸に上がりながら言った。
「私には、嫌いなものが三つある。一つ、身分で人を見る奴。二つ、女好きな男。三つ、暴力的な奴」
 つまり、お前だよ、とまでは言わなかったが、あまり言っても変わらなかったな、とリーファは思いながら、草陰に身を隠した。
 暫く時間が経ったが、森は静かなままだった。シュウも諦めただろうと思い、今日はここで寝ようと体を伸ばした瞬間だった。
「口には気をつけろ。首が飛ぶぜ」
 リーファは身を捩ったが、銀色の刃は容赦なく突きつけられる。
 刀の先には、鋭い黒い目を細め、口元に笑みを浮かべたシュウが立っていた。
 一言でも何かを言ったら殺されるだろう。魔術師の詠唱とは厄介なものだ、とリーファは思った。
 そんな時、大きな男の声とざわめきが聞こえてきた。
「向こうに人がいるぞ」
 シュウが一瞬目を離した隙に、転がるようにして私はシュウから離れ、急いで立ち上がり、声のした方と反対側に走り出した。
「ヘカーテ・エウリーナ(月の光)」
 小さな灯りを手に持ち、ガサガサと葉の擦れる音を立てて、リーファは走っていた。そのうち、大きな木の幹の洞を見つける。リーファは灯りを消し、洞の中に身を潜めた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -