5

牢獄


 それからすぐのことだった。突然、地響きを立てて、建物が崩れる。すぐに人のざわめきが響き、そして、再び大きな衝撃がした時、ついに牢は崩壊した。
 黙って外に出る二人の前に聳えるのは、大地から突出した巨大な岩。自然属性の魔術で破壊したらしい。
 リーファは、心当たりがあった。否、あり過ぎた。
 そして、リーファの期待は、裏切られなかった。
「助けに来たよ。大丈夫?」
 崩壊した建物の影から走ってきたのは、灰色の世界の中の唯一の青。探し人を見つけた嬉しさを全身から発しながら言った。
「あの性悪天使が、イカガワシイコトされていないか、心配って言ってた」
 おそらく、ご本人がいたら、すぐに喧嘩に発展していただろうが、彼は腐っても守護天使。牢獄を襲うわけにはいかないのだろう。
 ミューシアは、きょとんと首を傾げて尋ねた。
「イカガワシイコトって何?」
 シュウは、あからさまに不快そうな顔をしていた。リーファも、溜息を吐きたかったが、シュウの反応から、特に何もなかったことが窺えたので、少し安心した。
「リーファ、あの天使斬って良いか?」
「シュウ、極悪天使斬ってくれるの?」
 いかにも危なそうな剣士の口元に浮かぶ笑み。純粋そうな小さな女の子の期待に輝く瞳。
 見かけだけは、よくある戦物の小説の微笑ましい一場面のようではあったが、言葉が全然微笑ましくない。むしろ、危険だ。
 リーファは、呆れたように溜息を吐いた。しかし、それはすぐに笑みに変わる。
「駄目。だけど、今日だけは、目の前の奴ら、幾ら斬っても文句は言わない」
 リーファは、いつのまにか目の前に並ぶ看守たちを横目で見つつ、さらりと言った。背中は未だ、酷く痛むのだ。
 シュウは口元をぐにゃりと歪ませ、狂犬のように笑みを浮かべながら、舐めまわすかのように看守たちを見渡した。ミューシアは、リーファの役に立てるという喜びに、笑顔で一杯だ。
 看守たちが、自らが置かれた状況に気付くのは、あまりにも遅かった。
 リーファ・シャーナ・シュライゼ。連れの活躍を見て、ふわりと微笑む魔術師は、平和主義者と言えども、決して神仏ではない。
 そして、彼女は万能な人間でもない。混乱の所為だろうか。ミューシアの目の周りが僅かに腫れていて、涙の痕があったことに、リーファは気付かなかった。



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