3

牢獄


 リーファは、シュウを恐れたことは一度も無かった。リーファは、自分に正当性があると思っていたからだ。しかし、リーファは、凶悪な笑みを浮かべる目の前の男を、心底怖いと感じた。
 何しろ、何をやらかしたのか記憶も無いし、少なからず、迷惑を掛けたことは列記とした事実だ。
「悪かった。いや、本当に申し訳ないと思ってる。すみません。ごめんなさい」
 とりあえず、リーファは、頭を下げる。謝罪の言葉を連続して述べることが、不自然かどうかなど、リーファの頭の中には無い。
 リーファは、目の前の男が、碌でもない奴だとは思っているが、今回、否があるのは、どう考えても自分だ。それに、いくらシュウだとしても、旅の仲間が、いきなり意識を失うなんてことがあれば、普通に戸惑うだろう。
「いきなり倒れやがって、心配せずとも戸惑うだろ。こっちの身にもなれ。慌てて体調べたら、拷問の痕。そういうことは、先に言っとけ。別に、弱っているからって言って、とって食う気はさらさらねーよ」
 ご尤もです。
 膝に肘を突き、いつも鋭い眼光をさらに鋭くして、乱暴に言うシュウに対して、リーファは、そう思った。
「手前の所為で、全身痛い」
「はい、すみません。以後気をつけます」
 リーファが再び丁寧に謝ると、シュウはぶっきらぼうに言った。
「礼」
「有り難うございました」
 ここでまた、丁寧にリーファは頭を下げた。すると、シュウは徐に溜息を吐いた。
「疲れた。手前は、起きたら起きたで、本当に迷惑だ」
 すみません、とリーファが言いかけた時、されを阻むように、シュウは続けた。
「一回、手前も、自分に合わない台詞並べてみろ」
 リーファは、鈍いわけではなかったので、シュウの台詞の意味は瞬時に理解できた。
「本当に申し訳ございませんでした」
 それしか言うことは無い。
 シュウは、まだ何かを言いたげだったが、それを飲み込むようにして牢の外に目を向けた。



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