2

牢獄


 細心の注意を払い(困ったことに、相手はただの女ではない)、シュウは入念にリーファの体を調べた。そして、原因は、貧血と疲労だという結論に至った。
 火傷も、命に別状が無い程度のものだった。それならば、ゆっくり休ませれば良い話である。シュウは、リーファの体の中でも、背中が異常に酷かったことを考慮して、出来る限り静かに壁に凭れかけさせた。
 シュウは、暫く眠る魔術師を見ていた。しかし、何かを思い出したかのように、袖を捲くった。
 爛れた肌に、毒々しい黒の刻印が浮かび上がっている。
 シャーナのSだ。
 拷問は、法律で禁止されている。しかし、リーファは、この刻印の所為で、拷問を受けてのだろう。それも、相当酷い物を。
 リーファは何も言わなかった。それどころか、最後まで隠し通したのだ。
「どんな精神してんだよ」
 確かに、彼女の様子はおかしかった。しかし、シュウは鈍い方ではない。そんなシュウに、隠し通せる精神とは、如何なるものなのか。
「暇になってしまったじゃねーか」
 どうしてくれるんだ、とシュウは眠り続ける魔術師に尋ねた。


 リーファが薄らと目を開けると、そこには檻の冷たい鉄の棒はなかった。鮮やかな紅い地に、派手な模様。リーファは慌てて体を起こした。体が酷く痛んだが、呻き声を上げるほどのものでもない。リーファは他のことで頭が一杯だった。
 抱かれていたわけではない。ただ、凭れかかっていただけだった。しかし、どうしてこんな状況になったのだろうか。リーファは、記憶に無かった。しかし、記憶に無かったことほど、恐ろしいものは無い。
 とりあえず、目の前で壁に凭れ掛かって眠る男をそのままに、リーファは自分の纏う衣を見た。
 リーファは、未だに藍色の衣を、上手く重ねられない。絶対に、僅かにずれる。それに、拷問の後のため、目を引くほどでもないが、かなり乱れていた。
 しかし、目の前の衣は、綺麗に重ねられていた。藍色の下に重ねられている薄い白の衣は、藍色の衣の下から絶妙な具合で顔を覗かせている。リーファは、サァーっと血の気が引くのを感じた。
 そして、リーファは、再び、眠る男を見た。
 すると、僅かに、男の瞼が動いた。
「お目覚めですか、御姫サマ?」
 漆黒の瞳を薄らと開け、口元をぐにゃりと歪ませる。勿論、ゆっくりと開いてきた目は、決して笑ってなどいなかった。



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