7

群青の花嫁


「それで、世界一の魔術師とはどういうことだ?」
 シュウは唐突にそう尋ねた。リーファは、ああ、どうでも良さげに返事をする。実際どうでも良いのだ。
「優秀な魔術師が揃っていると言われる神聖レンシス王国のどの魔術師も、私の魔術には勝てなかった」
 強力な魔術を使うリーファ・シャーナ・シュライゼに挑んできた魔術師は多い。牢の中での勝負で、リーファは負けたことが無い。
「多分、魔術に関してだけ言えば、ビアンカやミュウよりは強いと思う」
 窓の外に目を向けていたシュウの横顔が、僅かに強張る。
「だけど、世界一の魔術師が、必ずしも最強の魔術師ではないところが困ったところなんだ」
 リーファは溜息を吐いた。魔術師は、言葉を媒介にしなければ、足手纏いにしかならないのだ。それだけではない。
「無茶や無理をする人間が、弱いと言われ、安全圏でしか動かない人間が強いと言われる。不条理だと思う」
 シュウの黒眼が細められた。
「手前は、どちらを評価する?」
 シュウは、コーヒーカップをテーブルにおき、窓の方に向けられていた顔をやや傾ける。口元には、薄らとした笑みが浮かんでいる。
「前者」
 リーファは即答した。シュウの細い目が、一瞬だけ、僅かに大きくなった。
「リーファ、一つ教えてやる」
 シュウは、いつもと変わらない人の悪そうな笑みを浮かべた。
「あの意味分かんねぇ奴は、男でも女でもねぇ。奴は人間じゃねーよ」
 長い足をだらりと流し、欠伸混じりにシュウは言う。
 レナーサの従者ローリア。頭の中の構造を、是非とも聞きたくなるような奴だった。二度と会いたくない者としては、リーファの中で、堂々たる一位を占めている。一言二言言いたくても、会話が成り立たないのではしょうがない。
 ローリア、そしてシュウ、と分からないことは多過ぎる。しかし、リーファはどうでも良かった。
「つまり、あれに二度と会わなければ良いってことか」
 そういう結論に落ち着くのである。
 リーファに向けられたシュウの顔には、明らかに呆れが浮かんでいたが、リーファはそれ以上の考えには至らなかった。
 困った奴には、あれこれ言ってもしょうがない。会わないのが一番である。
 リーファは、温くなってきたお茶を飲んだ。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -