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群青の花嫁


 夜は深い。シュウは、ビアンカに、ミューシアを叩き起こさせた後、自分はランプを片手に持って、女の手を掴み、森の中を走っていた。
 女は黙っていた。喋る余裕も無いのだろうか。シュウは、女を気遣って速さを気にする余裕など無かった。夜の森は迷いやすい。しかし、三十分程走ったところで、休むのに丁度良い水場を見つけたため、シュウは休憩をとることにした。
 男の身である自分や、牢獄暮らしだったリーファならば、一時間ぐらい平気で走ってられるが、今、シュウの目の前にいるのは、極々普通のお嬢さんである。
 女は、水を飲み、荒い呼吸のまま、ぐったりとしていた。シュウは耳を澄ませた。耳に入るのは、森の音だけだ。
 シュウがゆっくりと息を吐いた時、女が突然口を開いた。
「あの人は、リーファという名前なのですか?」
 控えめな声と、予想外の言葉に驚きつつも、シュウは、ああ、とだけ返事をした。
「リーファ・シャーナ・シュライゼという名前ではないでしょうか」
「知り合いか?」
 シュウが尋ねると、女性はにっこりと笑った。
「親友だと思っています」
 それならば、自分が足止め役を買えば良かった、とシュウは一瞬だけ思ったが、リーファに隣町までの道が分かるとは思えない。
「リーファと旅をなさっているのですか?」
「魔術師としては有能だからな」
 気だる気にそう言うと、女性は明るい笑顔を浮かべた。
「見た目によらず、結構気難しいので、頑張って下さいね」
 何を頑張るのか。
 シュウはそう思ったが、欠伸をして聞き流すことにした。



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