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群青の花嫁


 村は、かなり騒がしく、行き交う声を聞く限りでは、誰かを探しているかのようだった。
「手前は逃げろ」
 村に入ってすぐ、シュウの押し殺したような声が聞こえた。
「死にてーのか?」
 どうやら、隣にある空家の中にいるようだった。リーファがいるのは、裏口の前だ。
「親のところへ逃げろ。道は分かるな?」
「隣町なんですが、暗いので……」
 女性の声がした。おそらく、若い女性だろう。しかし、会話の内容から、如何わしいことはしていないようである。しかし、かなり緊迫した状況のようだ。
「シュウ、私なんだけど」
 リーファは、木の壁に思いっきり顔を近づけて言った。
「リーファ、手前、入って来い」
 僅かな驚きの含まれた声と共に、リーファのすぐ隣の扉がゆっくりと開いた。
 中にいたのは、シュウと、昼間結婚式を挙げていた女性。昼間の純白の衣装とは違い、ボロ同然の服を着ている。しかし、かなりの美人だ。
 この微妙な取り合わせで、どうしようかとリーファが思った丁度その時、表の方から慌ただしい音が響いた。
「手前がくだぐたしているからだ」
 シュウは、女性に八つ当たりをした。理由は、彼の大人気なさで片付くところが、また哀しい。
 女性は、すみません、と謝った。リーファは、何も言わなかった。否、言う余裕がなかった。
「リーファ、手前は……」
 リーファは表の扉の前に立っていた。シュウの声に、振り返って言う。
「足止めぐらいならやるよ。あんたは、裏口からそのお嬢さんを連れて逃げて。途中でミュウとビアンカを叩き起こしておいて」
「面倒臭え。それで、手前は、大丈夫なのか?」
 心配するなんて珍しい、とリーファは思ったが、口には出さない。
「私は、世界一の魔術師だと思う」
 さらりと真顔でリーファは言った。
「何だよ。その不確かな宣言」
 律儀に返答するところは真面目だな、とリーファは思った。しかし、今はそれどころではない。
「色々言ってないで、さっさと行け」
 リーファは、それだけ言うと、裏口へ二人を無理矢理押し出した。そして、自分は、豪快に表の扉を開ける。
 扉を開ければ、そこにはずらりと並ぶ男たち。皆、鋤やら鎌やらを持っている。
「女を出せ。そこにいるのは分かっている」
 灯りがゆらゆらと揺れている。リーファは、ゆっくりと息を吐いてから言った。
「私では駄目だよね」
 リーファの口から漏れた言葉と共に、空気が一気に収束した。



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