7

行方不明の御妃様


 森への道を、二人はゆったりと歩いていた。
 リーファは、何故遅かったのかを尋ねると、シュウは、さらりと言った。
「ある女を捜していた」
 それを聞いて、リーファは、これ以上奥まで突っ込まないことにした。やはり女絡みである。
 話題を変えよう、とリーファは思い、真っ先に思いついた話を振る。
「そういえば、セフィリス・サラヴァンって、容姿端麗、文武両道の覇王だよね」
「それをどこで知った?」
 シュウは、間髪入れずに尋ねた。声は淡々としていたが、リーファに向けられる眼光は、鋭かった。
「さぁ。随分昔のことだと思う。セフィリスの名前ぐらい、知っていて当然だと思うが」
 セフィリス・サラヴァンの創った国。その国は、彼の死後、分裂した。そして、分裂してできた国の一つが、神聖レンシス王国となったのだ。教養のないリーファでも、このぐらいのことは知っている。つまり、この国の一般常識なのだ。
 しかし、シュウの眼光は、緩まるどころか、鋭くなった。
「この国では、セフィリス・サラヴァンは、醜い愚王だった、という考え方が一般的だ」
 リーファも、目を細めた。リーファは、そんなことを聞いたことがないような気がした。
 シュウは、いつになく真剣だった。派手な装いの上から覗く漆黒。相手が普通の女の子であれば、あまりの恐ろしさに失神してしまうであろう威圧感。
「手前、それをどこで知った?」
 リーファは考えた。知っていたら、教えるだろう。しかし、分からないのだ。まるで、水が水であるかのように、空が空であるかのように、リーファにとって、セフィリス・サラヴァンは鬼才の覇王なのだ。
「分からない」
 リーファはきっぱりと言った。考えても、分からないものは分からないのだ。
 そして、シュウが口を開く前に付け足した。
「あと、顔が怖い」
 張り詰めた空気が緩んだ。シュウが呆れたように溜息を吐く。
「怖そうには見えねーよ」
 じゃあ、悲鳴上げて卒倒しろと言うのか、とリーファは思ったが、口には出さなかった。
「じゃあ、私からも質問」
 シュウが片眉を僅かに上げた。
「何故、恋慕だと分かった?」
 そう、あの男は、あの御方を愛していた、とは言ったが、それが恋慕である保障はない。話の流れでは、おそらくセフィリス・サラヴァンだ。兄弟愛とか、師匠と弟子の間の愛とか、そういう方向に行くのは分かる。しかし、この男は、恋慕と言い切ったのだ。
「……分からねぇ」
 僅かに間を置いて放たれた言葉に、嘘だ、とリーファは確信したが、これ以上追及する気にもなれなかった。
「そういえば、髪」
 あっ、と気がつき、本日のお買い物を思い出し、思わず、リーファは口元を緩める。
「俺に言われて思い出したって顔だな」
 溜息を吐きつつ、口元に僅かな笑みを浮かべ、腹減った、と呟く黒髪の剣士に、助けてくれたことを含めて感謝の言葉を言えば、はいはい、と適当な返事が返ってくる。
 剣士と剣士の魔術師の歩く道は、まだまだ長い。



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