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行方不明の御妃様


 紅い着物に黒い髪。不快そうに細められた黒目。悪のヒーロー見参。
 リーファは、心の中で呟いた。助けて貰っておいて、態度が大きいのは、それ相応のことをやっている自信があるからである。
 しかし、ここまで良いタイミングだと、出てくるタイミングを窺っていたのかと疑いたくもなるが、結構な魔術を放ったので(勿論、被害は出ていない)、それを聞きつけて走って来たのだろう。リーファはそう思った。
「こいつは、俺の魔術師だ。勝手に殺されても困る」
 シュウの刀がギラリと光る。
 私は奴の魔術師なのか、とリーファは思ったが、確かにそれ以外に、関係を言い表す言葉は見つからない。
「知り合いでしたか。これは困りましたね。全ては貴方たちを会わせないようにするためだったのに……」
 意味不明だ。リーファはシュウを見た。顔を顰めるシュウも、さっぱり理解していないようだった。
「そして、あなたは、またセフィリス・サラヴァンに惹かれるのですね」
 リーファは目を細めた。
 セフィリス・サラヴァン。この世界で、彼の名を知らぬ者はいない。神聖レンシス王国が立つ前に、世界を統べた覇王の名だ。数ヶ国語を操り、文化と知識を深く愛した一流の政治家であり、策士であり、剣士だった。
 わけの分からない男だ、とリーファは思ったが、それだけではなかった。
「私はあの御方を、誰よりも愛していたのに」
 リーファは、男の頭を疑った。あの御方とは、セフィリス・サラヴァンのことだろうか。兄弟愛でも何でも、是非ともそうでないことを祈るのだが、会話の流れでは、セフィリス・サラヴァンだ。しかし、セフィリス・サラヴァンは数百年も前の王だ。
 リーファは怪訝そうに男を見た。
「知るか。俺はシュウだ。誰かに惹かれた覚えもねぇ。手前の恋慕なんて、更にどうでも良い」
 リーファはシュウを見た。いつものように、気だるげな表情だ。ふわりと風が流れる。
「俺に着いて来れる魔術師なんて、滅多にいねーからな。ただ、それだけだ」
 シュウは、それを言ったのと同時に、男に斬りかかった。本来、鎧が必要な男の剣と、シュウの刀では勝負は目に見えている。大体、シュウの強さは異常なのだ。
 逃げていく男を、シュウは深追いはしなかった。ただ、男の後姿を、怪訝そうに見ているだけだった。
 殺さないなんて珍しいな、とリーファは思った。



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