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行方不明の御妃様


 美しい金髪、鮮やかな青の瞳、白く透き通る肌、品の良いワイン色のドレス。姿は大人っぽいのに関わらず、可愛らしい雰囲気のある女性。名前は、レナーサ・レンシス・クィル二アというらしい。つまり、階級制度的には、二位であるクィルナの出で、レンシス王家に輿入れした女性ということだ。
「最近、ヴァルシア王太子と結婚した人?」
 町で噂ぐらいは聞いている。自分が脱獄した頃に、結婚した人だ。レナーサは可愛らしい笑みを浮かべて頷き、事情を話し始めた。
「私は、王子様を探しているんです」
 レナーサはふわりと笑った。白い肌に赤味が差す。
「王子と結婚しているのに?」
 リーファは驚いて、そう尋ねた。彼女は、王太子と結婚しているのだ。一体、他にどんな王子様がいようか。
 すると、レナーサは、説明不足ですみません、と言った。
「ヴァルシア様は、側室の御子で、第二王子なのです。ヴァルシア様が生まれる前に、王妃様が、ウェルティア様という御方を生んでおりました。しかし、王様は、側室を愛しておいでだったので、ヴァルシア様が、王位をお継ぎことをお望みになりました。そこで、ウェルティア様が生まれたことをお隠しになり、ヴァルシア様が長子だと公表したのです」
「それで、ウェルティア王子っていう人は追放されたのかな?」
 レナーサは、おそらく、と頷いた。
「本来、私はウェルティア王子と結婚するはずだったのです。それで、視察から抜け出してきたのです。従者には申し訳ないとは思ったのですが、是非、一度お会いしたくて」
 そう思いませんか、とレナーサは、小首を傾げる。リーファは、そうは思わなかったが、とりあえず、そうだね、と相槌を打っておいた。
 無謀と世間知らずは置いておいても、君は、一国の王太子で満足できないのか、と心根の中で呟きながら。
 リーファがそんなことを考えていると、レナーサはリーファの名前を尋ねた。リーファは、名前だけを答える。
「リーファ。古代レンシス語で、世界。良い名前ですね」
 レナーサは微笑んだ。
 古代レンシス語。教育を受ける機会にも恵まれなかったリーファには、何の接点もなかったものだ。
 世界という意味を持っていることも、自分の名前をつけた両親も知らなかったであろう。おそらく、何も考えずに、過去の人から名前を取ったのだろう。大層な名前を持ってしまったな、とリーファは思った。既に人ではないところが、微妙だ。
「初めて知った。私、古代レンシス語、分からないんだ。レナーサの名前の意味は?」
「私ですか。花の姫です。恥ずかしいですよ」
 レナーサは、ふわりと笑い、顔を赤らめる。
 こういうのに、男は惚れるんだろうな、などとリーファは冷静に考えていた。彼女を妻にした王太子も、たとえ、結婚した後も夢見がちであったとしても、さぞかし幸せだろう。
 最も、リーファの知る二人の男性には、当てはまりそうもない、とリーファは思ったのだが。(リーファの推測では、シュウは艶やかな大人の女性が好きで、ビアンカは、子どもっぽい人が好みである)
「へぇー。じゃあ、シュウ、ミューシア、ビアンカって分かる?」
 他に話が繋がるものが思いつかないのと、興味本位で、リーファは尋ねた。
「シュウは自由。ミューシアは心。ビアンカは、煌く光です」
 とても、らしい、意味だ。
「ウェルティア様は、慈しみの光なんです」
 レナーサは、そう続けた。再び浮かべた笑顔からは、仄かな花の香りがした。



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