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偉大なる神への宣戦布告


 夜、シュウは、ふらりとどこかに行ってしまった。よくあることなので、リーファは、ミューシアを寝かせ、ミューシアの隣に座っている青年と話していた。
「あなたは、あの男と、行動を共にする気ですか?」
 青年は、微笑を浮かべることなく、かと言って、他に表情を浮かべることなく、つまり無表情で尋ねた。
「一応、利害は一致しているから」
 リーファは、さらりと言った。
 シュウは、おそらくリーファの魔術を必要とし、リーファは、シュウの無刻の腕を必要としている。
「気をつけて下さい。おそらく、あなたが思っているよりも、ずっと危険ですよ」
 鳶色が細められる。
「生きるか死ぬかの牢獄生活十年続けてきたんだから、あれぐらいは大丈夫」
 死刑を宣告されたリーファは、牢獄で死刑執行人たちを、魔術で悉く撃退していたのだ。それに、リーファは命にそれほど執着していなかった。
「あなたは、何のために動く?」
「神のためであり、この神聖レンシス王国のためです。私は、この国の守護天使ですから。あなたは?」
 中身は意外と天使だな、などと呑気に考えながら、リーファは答える。
「シャーナとして生まれて、青春を牢屋で過ごし、出てきたばかりで、特にすることもない。シュウは、魔術師が必要なのか知らないけど、賛同できる部分もあるし、利害も一致してるから」
「それが、神に逆らうことになっても、ですか」
 ビアンカは、間髪入れずに尋ねた。怜悧な雰囲気を漂わせる真剣な面持ちを、リーファは軽く笑う。
「私は神の存在を否定する気はないけど、崇め奉る理由もないから」
 リーファは、神サマというものに、何かやってもらった覚えがない。何かやってくれたという点だけで話をすれば、道案内をしてくれたシュウの方が、遥かに評価に値する。
 ビアンカは、一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに亜麻色の細い糸のような髪を風に揺らし、呆れたような表情を浮かべた。
「それにしても、このドラゴンどうにかなりませんかね」
 私は微笑んだ。
 喧嘩するほど何とやら、である。


 それから、町で、無事に薬を手に入れ、晴れて、二人共、自由の身になった。しかし、町を歩く間、一行は、視線という名の牢獄に囚われていた。
 異国風の剣士と魔術師、さらに、精霊のような幼い少女、おまけに、黒い羽根を持つ美しい天使が、静かとは言えない様子で歩いているのだ。道行く人のの視線を集めないはずがない。
「また来ますよ。仕事でもありますし、決着をつけていないので」
 そう言い捨てて飛び立った美しい天使を、リーファは溜息交じりで見送った。
 手の掛かる子ども二人の面倒を一人で見た上に、珍獣のように見られながら歩いて、疲れたのだ。



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