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シャーナの魔術師が贈る
おじいさんと別れ、兄を探して歩いていると、ちょんちょんと肩がつつかれる感覚がした。振り返ると、シロラの女の子がやや俯き加減で立っていた。どうしたの、と尋ねようと思ったけど、それよりも先に女の子の方が口を開いた。
「ルフィーナ・ヴィアナ・ヴァーレン」
いきなりそう言われたため、私は驚いた。何を言っていいのかが分からなかった。
「名前……」
女の子が小さな声でそう言った。私はそこで漸く、彼女の意図が分かった。
「私はリーファ。リーファ・シャーナ・シュライゼ」
私は自己紹介をした。すると、女の子、ルフィーナは少しだけ口元を緩めた。
「助けてくれてありがとう」
ルフィーナの声は小さな声だった。それでも嬉しかった。
「私は魔術師だから、困ったときはいつでも呼んでね」
笑顔で手を差し伸べると、ルフィーナは握り返してくれた。
シャーナでも、身分差別をする人がするし、しない人もいる。友達になれる人も友達になれない人もいる。ヴィアナも同じだ。結局、身分で人間性は計れない。
ルフィーナに手を振っていると、大きな手が私の掌を握った。
「リーファ、大丈夫だったか?」
横を見上げるとカーリィ兄がいた。
「うん、大丈夫。カーリィ兄の友達が無事でよかった」
そう言うとカーリィ兄は、ありがとう、リーファと言って私の頭を撫でてくれた。二人で手をつないでゆっくりと帰路につく。
「カーリィ兄、今日もウィンダ兄は帰りが遅いって」
ウィンダ・シャーナ・シュライゼと私は同じ場所で働いていた。慎重な性格のウィンダ兄は、いつも丁寧に仕事をしていた。そのため、毎日のように最後まで残って仕事をしていた。
「ケレビスはもう帰っているはずだ」
カーリィ兄はケレビス兄と同じ職場だ。
「ケレビス兄はいつも早いね」
「あいつは仕事が雑なんだ」
私は、三人の兄を持つ末っ子だった。私が物心つく前に両親が病死したからだろうか。三人の兄は、年の離れた妹の面倒をよく見てくれた。しかし、三人とも私が投獄される前に死んでしまった。三人の兄は次々と死んだが、一人一人の死を今でも鮮明に覚えている。
最後に死んだカーリィ兄は、私を一人残して死ぬことはない、と言いながら死んでしまった。私は既にウィンダ兄とケレビス兄を亡くしていたため、カーリィ兄も死んでしまうと思って泣いていた。今思えば、きっとカーリィ兄は私を泣きやませたかったんだろう。最期まで心配をかけてしまったことを後悔している。
皮の加工をする仕事は、病気になりやすい。私は兄を亡くす度に、私はシャーナではなければ兄が死ぬこともなかっただろうに、と思った。
だから、何があっても生き延びたかった。たとえ、知らない大人だらけの牢獄に押し込められようとも、宮廷魔術師に狙われようとも、生き延びて隙あらば出て行ってやろうと思っていた。兄の分まで生きたかった。
魂がセフィリス・サラヴァンのものだったから、私は生きる気力を失わなかったのだろうか。