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鎖を引き摺る兄弟へ


 ヴァルシアは咳き込みながら話していた。
「ある日、彼は自分の母親が王妃であることを知った。僕は兄が嬉しそうに僕が弟だと言った時、私は兄に王位継承権を奪われるのではないかと危惧した。その頃の私は、王妃が私の母ではないことに気付いていて、そのことに対して劣等感を持っていた。それと同時に、王太子であることが唯一の誇りだった」
 貴族の兄弟が仲良くできることは少ない。それをよく理解しているレナーサは、普通に流すこともできるはずだった。しかし、二人の関係は多くの兄弟とは違うように感じたのだ。
「ウェルティア王子は、王位が欲しかったとは思えません」
 レナーサは、ウェルティア王子が王位継承権に頓着しない人間のように感じた。ウェルティアはシャーナの魔術師であるリーファと共に城にやって来て、一暴れするとすぐに消えてしまった。彼には王位継承権など興味がないことは明らかだった。
「それどころか、兄は地位や身分すら欲していなかったんだよ。当時の私はそのことに気付けなかった」
 ヴァルシアはゆっくりと息を吐いた。
「私は陛下に相談に行った。勿論、私のことを気に入っていた陛下が、兄を排除してくれることを理解した上でね」
 レナーサは息を呑んだ。レナーサは現国王が苦手だった。国王はヴァルシアのことを可愛がり、レナーサのことを嫌っていた。国王自身が決めた結婚なのだが、愛息子の結婚相手は憎いらしい。それだけではなく、国王は狡賢いところがあった。それは国王として悪い要素ではないのだが、現国王は度が過ぎていた。
「陛下は私と兄の目の前で、王妃を虐待した。兄は虫の息の母王妃に縋り、その後王妃の魔術の助けを借りて逃げ出した」
 レナーサは気分が悪くなった。虐待の意味を知らないわけではない。
「怖かったんだろうね。目の前で母を虐待されて。兄は、変わり果てた王妃の姿を見て、兄を陥れた私を褒める陛下の言葉を聞いた。その時の兄の表情は忘れられないよ」
 ヴァルシアは自嘲を浮かべた。酷く辛そうな表情だった。
「兄の顔を見ていたのは私だけではなかった。王妃は、私に呪いをかけたんだ」
 そこまで話してから、ヴァルシアは黙り込んだ。レナーサは何を言おうかを考えた。ヴァルシアが待っているような言葉が思いつかなかった。
「王妃殿下はウェルティア王子のことを愛していたのですね」
 レナーサは素直に感想を述べた。息子を本人の意思と関係なく玉座につけるために閉じ込めていたものの、彼女は息子を愛していたのだ。
「本人は気付いていないようだったけど、あの人は愛さていたよ。嫌われるような性格ではないんだよ」
 ヴァルシアはそう言って、天井を見つめた。しかし、すぐにレナーサの方に視線を戻し、話を続けた
「呪いについては、体を蝕む呪いであることは分かっているんだけど……王妃は国一番の魔術師だったから、誰もこの未知の呪いを解けなかったんだよ」
 でも、死にはしないからね、とヴァルシアは続けた。
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