9

階段の無い国


 やってきた町長は、暫く生活していくのに、十分過ぎるお金をシュウに渡し、何度も何度も礼を言った。
「いや、倒したのは、俺じゃなくて、そっちの魔術師」
「こんにちは、リーファです」
 すると、町長は、はっと目覚めたかのように、リーファに頭を下げ始めた。それが滑稽だったのか愉快だったのか、シュウの笑みは、いつもに増して深い。
「ああ、しかし、町の者の顔も見てーよな」
 シュウはにやりと笑った。リーファは、すぐにシュウの真意を悟る。
「では、町の者たちをお呼びします。噴水広場に……」
 町長の言葉に、シュウはさらに笑みを深めていた。


 噴水広場の演台に、リーファたちはいた。町中の人間が集まる中、シュウは満足げに辺りを見渡していた。
「退治したのは、女性魔術師だって」
「高貴なお方なのでしょうね」
 人々のざわめきの中で、そんな言葉を耳にしたリーファは、あまりの変貌振りに苦笑いした。
 しかし、シュウはそれもまた面白いようだった。そして、静かになった噴水広場で、リーファに耳打ちする。
「名乗れよ」
 リーファは、拡声器の前に立ち、大きく息を吸った。
「始めまして。私はリーファです。ドラゴンを退治させて頂きました」
 轟音のような拍手が湧き起こる。リーファは、ゆっくりと、さらに大きく息を吸う。
「本名は、リーファ・シャーナ・シュライゼ」
 高々と叫び、着物の袖を捲くる。露になったのは、Sの刺青。
 辺りは、水を打ったかのように静かになった。シュウはこれ以上になく、彼らしい笑みを浮かべていた。
 リーファは、シュウと目配せする。そして、ミューシアを抱き上げて、さっさと演台から降りた。
「あいつらは、俺たちを騙したんだ」
「あのドラゴンだって贋物だ」
「シャーナに、ドラゴンが退治できるはずがない」
 背後の怒鳴り声。それは、早足で町を後にするリーファたちにとって、負け惜しみにしか聞こえなかった。
 彼らは当然知っているのだ。二十六階級の中で、四番目の学者階級、オペックの人間が、リーファたちが持って来たドラゴンを、本物だと言い切ったことを。



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