8

階段の無い国


 ミュウは、再度自己紹介をした。ミューシアという名前のドラゴンで、町荒らしの犯人であるということ。
 そして、その理由は、あるものを見れば分かると言う。ミューシアに着いて山に少し分け入ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
 山積みになって倒れているドラゴン、そして、美しい羽の生えた人のようなもの、天使がその周囲に倒れている。全てが血塗れで、誰一人生きている者はいない。
 人間の血ではないため、特有の鉄の臭いはしない。しかし、その光景は、あまりにも無残で、流石のリーファも、目を逸らしたくなった。
「ドラゴン、昔から、ずーっと森の中でひっそりと生活してきたの」
 ミューシアはそう語りだした。リーファは、初っ端から欠伸を始めるシュウを腕でどつく。
「でも、天使がたくさんやってきてね。ドラゴン、みんな殺されちゃった」
 リーファは目を細めた。そんなことはありえない、と直感的に思ったのだ。何故、ドラゴンが殺されなければならないのか。
 そう思いながら、隣で、殺される方が悪ぃ、などと呟いているシュウを睨む。
「ミュウは、その時お散歩に行ってた。それでね、帰ってきたらこうなってた。ミュウは怒ったよ。ミュウはとっても強いの。天使も強い。でも、天使は油断してた」
 血塗れの死んだドラゴンと、同じく血塗れの天使たち。そんな状況を前に、座り込んで林檎を食べ始めるシュウの手を踏みつけながら(勿論、痛っ、などと言って睨みつけてくるのは無視だ)、リーファは口を開いた。
「ミュウが全部やったんだね」
 ミューシアはこくりと頷いた。
「ミュウは強いけど、まだ一人でご飯は食べれないの」
 果物のない山で、ドラゴンは狩りをしなければいけないだろう。狩りと戦いの強さは違う。
 食い物取れねぇ奴は野垂れ死ぬべきだろ、と呟くシュウの手をぐりぐりと踏みながら、リーファはミューシアに微笑む。
「ミュウ、行く当てもないんだよね。着いておいで……ただ、交換条件がある」
 そして、リーファは小さなミューシアを抱き上げる。ミューシアは、不安げにリーファを見た。
「ミュウと同じぐらいの大きさのドラゴンの死体が欲しいな」
 そう言うと、ミューシアは、快くとまではいかずとも、承諾はしてくれた。
 急に元気になったシュウと、自分にべったりなミューシアと共に、リーファは下山する。
 町に着くと、注がれるのは、さらなる奇異の視線。
 異国風な男女二人と、娘と言っても過言ではないぐらい幼い少女。さらに、男は、神聖レンシス王国では珍しい黒髪で、少女は、人間とは思えないほど鮮やかな青い髪と青い瞳。さらに、三人共恐ろしく似ていない。
 そして、持っているものが、町を荒らしまわっていたようなドラゴンの死体なのだから、すぐに、人だかりができた。
「この町の責任者、呼んでくれねぇか」
 シュウは、近くにいた若い女性に、そうやって声を掛けた。女性は慌てて返事をし、すぐに呼びに行ったようだった。
 ミューシアは人だかりが怖いようで、リーファの足にしがみついていた。リーファが抱き上げると、ありがとう、と小さく言って微笑んだ。
「どうするつもり?」
 リーファは、ニヤニヤと笑っているシュウに耳打ちする。
「まずは責任者だ。できるだけ人を集める。面白いことになるぜ」
 シュウはそう言って、人の悪い笑みを浮かべた。



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