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女魔術師と剣士


 船の中にはレストランがある。リーファは、人混みがあまり好きではないため、近寄ることは少なかった。それでも、海の見える魅力的なレストランに、足を運んでみよう、と一度ぐらいは思うのは、おかしいことではない。その上、神聖レンシス王国の人間か少ない船内のため、それ程気を遣わなくても済む。
 お金には余裕があった。安い船なので、それ程値段は高くもない。
 本来ならば、誰かと一緒に食べたい、とリーファは思っていたが、ミューシアとビアンカは、外食できるような胃の持ち主ではない。そして、シュウとは、二人きりで話す気がしなかった。そのため、リーファは一人で店内に入った。
 御一人ですか、と笑顔で案内をしてくれる店員について、海の見える席まで歩いていく。
 人間というものは、一人で歩く時、前だけを見ていることは少ない。その上、ここは海の見える賑やかなレストラン。リーファも例外ではなく、周囲を見渡しながら歩いていた。
 それが良くなかった。
 窓辺の席の亜麻色の頭の反対側の黒い髪。笑みを作るように歪められた口元。この船では珍しくない黒い双眸と目があった時、リーファは非常に不快になった。
 気まずい思いならばまだ良かった。しかし、リーファは、不快に思った。腹立たしいわけではない。不快だったのだ。
 シュウという男が女と談笑している姿を見て、自分が不快に思う理由を理解しているリーファは、そのまま真っ直ぐ部屋に戻り、寝台に横になった。「見たもの」に対して不快に思っているのではない。「見たもの」を見て、不快に思った自分が不快なのである。暫くして、どたばたと三人が戻ってきた後も、ミューシアを抱きかかえる気にならない。これが不貞寝であるということも知っているリーファは、大人であるのか子どもであるのか。
「リーファ、何していてやがる? 具合が悪いのか?」
 カーテンの向こうから聞こえてくるシュウの声。リーファが疲れてる時には、殺意を向けられる可能性が高いため、顔を見せずに、ビアンカとミューシアに、様子を見るように促しているのだろう。シュウ本人は、興味が無さそうに呟いた言葉なのだが、意外と真意は読み取りやすい。シュウはリーファを心配していたし、リーファはそれに気付いていた。
 リーファは寝返りをうつ。
 目が合ったのだから、レストランで、自分がリーファに見られていることは分かっているのだ。しかし、それが純粋に、リーファの行動と結びつかないのである。異性と共にいる自分と目が合ってから、席に座ったもののすぐに席を立ってしまった異性の相方に対して、確信は持てずとも何か思うことはあるのが普通。
 しかし、その「思うこと」が真っ先に排除されているシュウの思考。それも、リーファの不快という感情を増幅させる。
「リーファ、気分悪いの?」
 様子を見に、そっとカーテンを開けて心配そうにリーファを見上げるミューシア。
「疲れているみたいだから、休ませて」
 リーファは大きな青い瞳に向かって微笑んだ。


 シャーナの魔術師リーファ・シャーナ・シュライゼと、覇王セフィリス・サラヴァンことセイリアには、共通点があった。それは、自分の感情を隠すのが上手かったこと。そして、神聖レンシス王国のウェルティア王子ことシュウと、聖騎士バルベロにも共通点があった。それは、自分の感情を隠すことに価値を見出せないことと、自分を偽らないことだった。
 バルベロは、セイリアの考えていることは分かったが、セフィリス・サラヴァンの考えていることは分からなかった。ただ、セフィリスが、支配者として、人を殺したり、国を攻め滅ぼしていることは知っていた。そして、神に何の期待もしていないことも知ってしまった。
 二人の間の行き違いが悲劇を生んだのだ。
 それに気付いてるのは、女性の感性と、僅かながら男性の感性を併せ持つリーファ・シャーナ・シュライゼ、ただ一人だった。

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