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女魔術師と剣士
ビアンカとミューシアは大人しく船に乗っていた。しかし、船室のベッドで爆睡しているシュウを置いて、リーファのあとをつけていた。
何かがあったことにビアンカは気付いていた。しかし、ビアンカが知っているのは、シュウがセフィリス・サラヴァンの魂を持っているということだけ。
「何があったんでしょうね」
ビアンカは、自分と同じように、リーファとシュウの異変に気付いたミューシアに向かって、そう言った。
「気まずそうだよね」
どこでそんな言葉を知ったのか、と思いながら、ビアンカは、ミューシアの横顔を見る。すっと細まった青の瞳を見て、ビアンカは一瞬戦慄を覚えた。
「考え過ぎてお腹減っちゃった」
しかし、気のせいだった。
「色事関係では無さそうですね」
ビアンカは深く尋ねることなく、そう言った。
色事ならば、シュウがリーファに遠慮する理由が分からない。
しかし、ビアンカには気になることがあった。
リーファ・シャーナ・シュライゼ。彼女は、派手に魔術を使うことはない。しかし、彼女の魔術は、“人間とは思えないもの”。そんな強い魔術を人間が使うことができない理由を、ビアンカは知っている。熾天使だけが知っている神の心。
リーファ・シャーナ・シュライゼが、神の恩恵を受けていないのだったら、彼女が抜きん出た魔術を使えるのも、シュウと何かがあったということも、説明が可能だ。それに気付いたビアンカは、吐息になったような言葉を紡ぐ。
「エレカでしょうか、バルベロでしょうか」
ミューシアには聞こえない程度の声だったため、ミューシアは大きな目で、リーファを見ているだけだった。
身も心も覇王に喰われたエレカ。生き地獄を味わされたバルベロ。両者とも、セフィリス・サラヴァンに虐げられた者。その二人のことを考えながら、海を見ている女魔術師を見る。
「ウェルティア・レンシスをどうにかしなければいけませんね」
声になるかならないか分からないような呟きは、広大な海に消える。