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五里霧中


 リーファは、大怪我をして帰ってきた男に、どこに行っていた、とは尋ねなかった。しかし、ビアンカに比べたら遥かに良い。ビアンカは、ついに罰が当たったのですね、と天使の時と全く変わらない美しい笑顔でそう言っていた。
 誰も彼の身を心配しないのは、いつものことである。
 しかし、リーファには理由があった。
 聞きたいことがあったのだ。リーファは、ミューシアとビアンカが眠ったのを確認してから、リーファは早速尋ねた。
「それで、エルストア帝国に行くらしいね。故王妃は、エルストア人だったのかな?」
 シュウは、驚きもせず、火の片付けをしながら、淡々と述べた。
「セレシアは、エルストア帝国の第十三皇女、フェーリア(国外)から来た王妃。だが、ヴァルシアがセレシアの実子であるとされているんだが……気になることがあってな」
 まるで意識が別のところにあるかのようにシュウは喋る。
「エルストア帝国は、皇女を送り込んでから全く国に使者を送ってこない」
 リーファは目を細めた。リーファ自身には、政治知識は無いが、セフィリス・サラヴァンの記憶を遡れば、それがおかしいことは明らかである。
「魔術に長けていて……頭は良かった?」
 それも、魔術の才能のある皇女。これ程までに、有用な皇女を、国外に出すこと自体おかしいが、それをそのまま放置となれば、何かあると考えざるをえないだろう。
「悪くはなかったと記憶している」
 その言葉に、絶対に何かがある、とリーファは確信した。
「しかし、故王妃……おそらくあいつは、かなりの食わせ者だぜ。帝国に真意を尋ねる。まぁ、俺は利用価値はあるわけだから、殺されはしないだろう」
 リーファは、シュウの言葉に頷いた。そして、漸く尋ねる。
「それで、見誤ったわけでね」
 包帯だらけの体。染みついた血の臭い。体を庇うような動作の数々。明らかに重傷の状態で帰ってきた男。彼の強さは、リーファが良く分かっている。
「見誤ったことは、確定かよ」
「それ以外では怪我はしないだろう」
 その強さの一つは、自分の実力と相手の実力の正しい把握。元々の身体能力は申し分の無いシュウが、大怪我をするなど、これ以外は考えられない。
「とりあえず、上を脱げ。なーに、心配しなくても、血を見て狂乱状態には……ならないと思う」
 リーファは、シュウの治癒のために、体力を温存してきた。さり気なくシュウの顔色を窺いながら、悪戯っぽく笑う。
「絶対なるなよ」
 一応重症患者は、素直に従いながらも、かなり必死になって言った。その反応に、リーファは安堵するように笑った。

 少しずつ、関係は修復されているのだ。

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