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五里霧中


 時を同じくして、森の中では、香ばしい匂いが消えかかっていた。
「シュウ、遅いねぇ。全部食べちゃったのに」
 そう言って、ミューシアは自分の食べた肉の骨を見る。肉を焼いていた火は消えており、すぐ近くでは、リーファは、魔術を駆使しながら、てきぱきと動物の死骸を片付けている。
「今帰って来られても不味いですけどね」
 ビアンカは、跡形も無く肉が残っていない骨の山を見た。今帰ってきて貰っても、食べる物が無いのである。
 皮を束ね終えたリーファは、気になっていたことをビアンカに尋ねる。
「シュウがどこに行きたがっているか聞いている?」
 自分たちの足が、王都から遠ざかっているのは分かるが、どこへ向かっているのかをリーファは知らない。
「随分前でしたけど、リーファが戻ってきたら、エルストア帝国に向かうと言っていましたよ」
「エルストア帝国って?」
 リーファは、目を細めた。
 リーファ・シャーナ・シュライゼは、神聖レンシス王国しか知らないし、セフィリス・サラヴァンは、今の世界を知らない。
「ここから南下したところにあるフレスト海峡を渡った向こうにある大陸が、エルストア大陸というのですが、そこにある大国です」
 エルストア大陸は、昔のユーリス大陸のことか、とリーファは思った。当然のことながら、数百年前の知識ならば、この中での誰よりも詳しい自信があった。よって、様々な知識が流れ込んでくるが、知識といえども数百年前のこと。役に立たないこと限りない。
「僕やミューシアは確実に目立ちますけど、シュウはそんなことはないでしょうね。見るからに、エルストア大陸の人間なので。彼、エルストア人の血が入っているんじゃないでしょうか」
 ユーリス大陸の人間は、肌の色が濃く、髪の色は黒色だった。
 リーファは、昔見たユーリス人をゆっくりと思い出していた。
「本当に、シュウはどこに行ったんだろうね」
 そして、ミューシアのこの一言で、リーファは、シュウがいないことを漸く思い出す。
「そのうち帰って来るでしょう。全く……人間は、子どもでも、行く場所と帰ってくる時間を言いますよ」
 ビアンカが、徐に溜息を吐く。美しい顔に浮かべられた憂いには、心配など欠片もない。呆れているだけなのだ。
「あれを人間として認めるのもどうかと思うよ」
 さして、リーファが止めを刺す。
 まさか、彼が九死に一生を得たとは、誰も思っていない。

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