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ドラゴンと天使
セレシア・フェーリア・レンシス。神聖レンシス王国王妃。美しく聡明な王妃と言われている。それをリーファがシュウに言うと、シュウは実に複雑な表情をした。
「まぁ、人によるな、故王妃は。俺は駄目だ」
誰が母親の評価をしろと言った。
リーファはそう思ったが、黙っていた。
しかし、いつまでも、木の上にいても仕方が無い。リーファが、木から降りよう、と思い始めたとき、リーファより先にシュウが飛び降りた。リーファは、自分を飛び降りようとするが、何故か飛び降りることができない。
「怖いのか?」
そう尋ねたシュウは、いつもの人の悪い笑みを浮かべてはいなかった。
「そんなことは無い筈。昔から高いところは好きだった」
リーファは不思議に思った。小さい頃から、木登りは得意だった。遊び道具などないシャーナの子どもの数少ない遊びの一つだった木登り。その中でも、リーファは木登りに自信があった。
高いところが怖いなど思ったことが無いはずである。
リーファがどうしようか、と考えていると、シュウが言い難そうに尋ねた。
「手前、あれから何があった」
リーファはシュウの表情を見た。ふざけているわけでは無さそうだった。リーファは必死に思い出す。何か思い当たることは無いか、と。
「階段から落ちた」
リーファは思い出した。
「天に続く階段から落ちて……そういえば、あの時、かなり怖かったかもしれない」
リーファは神に階段から落とされた。落下する途中で、意識を失った。落下する途中で、物理的要因で意識を失うはずは無いのだから、精神的なもののはずである。
リーファがそう言うと、シュウは思いっきり表情を歪めた。
「かもしれない、って手前……あれから落ちたのか?」
リーファは頷いた。落ちたのは、紛れも無い事実だ。
「それで、自分では無理だからさ、後ろから軽く突き落としてくれると有り難い」
シュウの動きが固まった。信じられない、というような表情だ。リーファは何故だか分からなかったが、シュウは、正気か、と三度も尋ねた挙句、再び木の上に登り、リーファを木から落とした。
リーファは、無事に木の上から降りることができたので、シュウに礼を言ったのだが、シュウは釈然としない表情をしていた。
勿論、リーファはその理由も分からなかった。