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ドラゴンと天使


 レンシス故の抜群の運動能力に救われたリーファは、軽く礼を言う。ミューシアとビアンカは、天使一人に襲われたところでどうにかなるわけでは無いため、リーファはゆっくりと息を吐く余裕があった。
「生命の子か……」
 思わず考えていたことが、口から漏れる。
「知ってるのか」
 それは、疑問と言うよりも、確認に近かった。黒い髪を揺らし、シュウは、リーファの方を向く。
「知らないって言ったら嘘になるけど、何故、この時代に生まれたのかが分からないね」
 リーファが知っているのは、勿論、セフィリス・サラヴァンが知っていたからである。それ以上のことは知らない。
「どういうことだ?」
 シュウは怪訝そうに目を細めた。
「生命の子が、自然に生まれてくることはありえない。誰かが、意図して生み出したはずなんだけど、相当の実力者じゃないと無理だね。シュウ、ここ数年で、私よりも強い魔術師はいた?」
 基本的に、下層階級には、魔術師は生まれない。宮廷魔術師に、リーファは勝てる自信がある。リーファは、王国一の魔術師である自信がある。そして、リーファは、自分が生命の子を生み出すほどの魔術の力を持っていないことを理解している。
 だから、リーファは大して期待をせずに尋ねた。しかし、シュウの反応は、意外な物だった。
「いた……いたな。手前よりも強いと思う」
 漆黒の目を細め、前を向いたかと思えば、すぐに天を仰ぐ。
「どのぐらい強い?」
 リーファは、シュウの奇妙な動きを怪訝に思いながら、そう尋ねる。
「この王国に、いや、この大陸全体に魔術を掛けたな。相当な物だと思うぜ」
 リーファは目を細めた。大陸に魔術を掛ける。それは、人間では不可能であろう領域だ。
「名前は?」
 風が吹いた。
「セレシア・フェーリア・レンシス。故王妃だ」
 男は、低い声で、そう紡いだ。
 故王妃。それは、シュウの母親を指す。
 シュウはあっさりとそう言ったが、リーファと目を合わせようとはしない。リーファは目を細めて、シュウの横顔を見た。


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