3

ドラゴンと天使


「ほう、生命の子だな……どれどれ」
 気を取り直して、とでも言うように、シンラと呼ばれた天使は、物色するかのようにミューシアを見た。ミューシアは、小さく悲鳴を上げて、リーファの方へ走ってきたので、リーファはミューシアを抱き上げた。
 生命の子の意味を知っているリーファは、シュウの顔色を窺った。シュウは知らないようだった。それどころか、元々興味が無いため、面倒臭そうな顔で天使の言い合いを見ている。
「あはははは、懐かれてはないようだなぁ。報われねぇ」
 明るい笑い声は、いきなり止んだ。鮮血が飛ぶ。シンラの喉元を、ビアンカが小さく突き刺したのだ。
 隣にいたシュウが目を細めた。ミューシアは、目を見開いて、震え始めた。リファは、抱き締める力を強くする。
「堕天した僕には、あなたを生かしておく理由はありませんから」
 ビアンカの声は冷やかだった。だからこそ、それはさらに加速する。
「知っているか? 生命の子。お前が生まれた所為で、お前の一族は滅ぼされたんだ」
 シンラの笑みは凶悪だった。
 そして、堕天使ビアンカは、元々短気である。
 横に傾けられた顔。細められた双眸。口元に浮かぶのは不気味な笑み。それがすぐに行動に移ることを、リーファは知っていた。
 神と対立するは世界。世界は、生命があってこそ、世界となる。
 頭に響くのはそんな言葉だが、リーファはそんなことについて一々考えている場合ではなかった。暴風が吹く。直接的な魔術を使うのは憚られたのだろう。そして、ビアンカの頭に、「ドラゴン」はあったが、「人間」はなかったのだろう。
 人間は空を飛べない。
 リーファは空中でミューシアを離した。空色の髪が視界に移ったかと思えば、それは艶やかな鱗に変わる。
 リーファはそのまま落下した。ミューシアが助けてくれるような動きを見せたが、元々運動神経の悪いリーファには、それに飛び乗るような芸当は不可能である。目下に広がるのは森だから、大怪我はしても、打ち所が悪くなければ生き延びれそうだ、とリーファは思いながら落下した。いまだに強風が吹いているため、それ程落下速度は速くない。
 しかし、視界が緑に変わっても、体が止まることはない。あと少しで地面である。そんな時、腕に強烈な痛みが走った。
「脱臼していないか?」
 そのまま体を木上に持ち上げられる。
「助かったよ」
 そう言って、リーファは、木の幹に腰掛けた。

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