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バルベロとエレカ


 シュウは随分と派手に侵入したらしく、屋敷で抵抗するような者たちはほとんど斬り殺されていたため、二人は悠々と歩くことができた。
 シュウに先に礼を言うべきか、先に謝るべきか、そしてどうやって切り出すべきか、と考えていたリーファの心はあまり悠々としていなかったのだが、斜め前を歩く男の足取りは軽かった。
「それで、大丈夫だったのか?」
 ずっと黙っていたシュウが、突然口を開く。一体何のことだろうか。リーファは一生懸命頭を働かすが、思い当たる節が無い。大体、リーファが怪我をしていないことなど、誰が見ても明らかだ。
「何が?」
 随分と間を空けてから、リーファは尋ねた。
「貞操」
 間髪入れずに言われる。確かに重要事項だが、あの別れの後に、最初に尋ねられた質問がこれというのもどうだろう、とリーファは思った。
「ギリギリ。本当にやられるかと思った」
 あれはかなり危険だった、とリーファは思っていた。それで、リーファがそう答えると、いきなりシュウが笑い始める。
「何がおかしい?」
 声が毛羽立つ。
 心当たりもないのに笑われると、リーファも気分が悪い。さらに、後味の悪いエレカの件の後だ。一体自分が何をしたのだろう、とリーファは思った。
「さぁな、考えてみろよ」
 帰ってきたのは、軽い声だった。


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