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バルベロとエレカ
シュウはすぐにローリアと向き合った。
「久しぶりだな」
吐き捨てるようにそう言って、ローリアが何かを言うより先にすぐに続ける。
「相変わらず、何考えているのか分からねーな。分かりたくもねーけどよ」
すぐに斬り捨てるようなことはせずに、呆れたように言う。ローリアは、嫌悪感を顕にしていた。
「まさか、あなたが妖婦の転生者だとは、思ってもいませんでした」
ローリアの言葉に、シュウが表情を歪めた。
「バルベロが妖婦? そんな馬鹿なことがあるか。無理矢理夜伽の相手をさせていたのは、あの男だ」
だよな、とでも言うように振り返ったシュウに同意を求められ、リーファは黙って頷いた。間違っていない。リーファはそう思っていた。そして、リーファは、シュウが目を離す直前に、一瞬表情を歪めたことを見逃さなかった。
何が気に入らなかったのだろうか、とリーファは思った。
そして、ローリアが何かを言おうとするが、それより先に、シュウが動いた。
「エレカ、もう楽になれ。お前が愛した覇王は死んだ」
血の飛沫が飛び散った。
先程、護衛の者を斬った時に既に赤黒くなっていた黒髪は、再び血を被った。リーファの方にも、血の雨は降ってきた。そうは言っても、ごく僅かでもあったのだが。
「もっと早く殺しておくべきだった」
シュウから滲み出た言葉は、突き刺すような物だった。決して荒い声ではない。彼特有の、低い静かな声だ。そして、意図があるわけでもなさそうだった。だからこそ、それはリーファに響いた。
エレカは転生した。自我ができるより前に記憶を取り戻し、今まで押し殺してきた感情を反動の如く出すようになった。エレカは、ただ走り続けているだけだ。今も昔も変わらず、真っ直ぐと道を走っている。
それは覇王の所為であり、シュウがエレカに同情しているのは明らかだった。
リーファはスカートについた紅い染みを見た。それは、目の前の男が被った血と比べれば、ついていないも同然だった。