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なよ竹のかぐや姫


 君は裏切らないね、とリーファは心の中で呟く。
「バルベロですか」
 ローリアが恨めしげに呟いた。
「何故、あなたはバルベロに惹かれるのですか?」
「惹かれていない」
 リーファは声が荒くなるのを感じた。心に残る奇妙な感覚を無視し、それを誤魔化すように迎えの方へ行こうとする。
 しかし、ローリアがそれを許さなかった。
 腕を掴まれたかと思うと、そのまま引き寄せられ、力だけで押さえ込まれる。慈しむように寄せられる滑らかな肌に、嫌悪感を抱きながらも、リーファは声を上げた。
「ニュク……」
 魔術を使うために夜の女神の名を叫ぼうとするが、骨ばった手で口を抑えられ、それは阻まれる。所詮女の力だ。リーファは噛み付いた。しかし、それも無駄な抵抗だった。
 そもそも、シャーナの体というのは、力を弱くされている。最下層に相応しいように、神によって作り変えられている。
 それでも、抵抗しなければ、貞操の危機だ。冗談じゃない、とリーファは思い、必死に噛み付いた。
 しかし、いきなり扉が開いた。護衛の者たちが流れ込んでくる。彼らは、顔一杯に恐怖を浮かべながら、懇願するかのようにローリアを見た。ローリアの力が一瞬弱まる。
 リーファはその隙を見逃さなかった。ローリアを振り払って、護衛が入ってきた方の扉へ走る。
 その時、扉の向こうにふと影が現れたかと思うと、目の前で、紅い飛沫が飛ぶ。リーファは、生暖かい液体を頭から被った。不快以外の何物でもない。しかし、何故か心は軽い。
 薄らと目を開けると、紅い衣と、薄暗い中で映える白い歯。そして、もう息もしていないであろう護衛の者たち。
 こんなことをできるのは一人しかいない。仮にも貴族の雇っている護衛の者を、何の躊躇いもなく、一瞬で切り裂ける者。赤黒い血を頭から被っても、白い歯を出して笑える剣士。そして、翻る派手な異国の衣。
「出迎えはねーのか? かぐや姫サマ」
 シュウは、口元を歪めるようにした笑みを、リーファの方へ向けた。

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