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なよ竹のかぐや姫


 満月の夜が来た。
 月は明るかったが、別に洒落た物ではなかった。平凡な満月である。リーファは色々と複雑な思いもあったが、ミューシアに会えると思えば、心も浮き立った。
「ローリア様、どうかなさいましたか?」
「顔色が悪くて心配で……ところで、月が綺麗だと思いませんか?」
 そして、目の前の男と漸く離れることができると思えば。
 何故、ローリアがここにいるのか。答えは簡単だ。彼がこの屋敷の主だからであり、エウラドーラがメイドだからである。つまり、リーファが彼の来訪を拒否できないからである。そして、それが意味するのは、リーファが拒否できるのならば、既に拒否しているということである。
 何故ここまでリーファが嫌うのか。それは、元を辿れば、セフィリス・サラヴァンが、エレカを煩わしく思っていたところに由来するのだが、リーファ自身としては、その程度で片付けて欲しくはない。
 リーファは、この人間の恋愛事と勘違いで、自分の人生が狂わされたことに怒っている。怒らない方が無理だろう。そもそも、リーファ・シャーナ・シュライゼとは、恋愛を軽んじる傾向にあり、その程度のことで、という思考の流れに至ってしまうのだ。
 つまり、どうしようもない。
「私は一介のメイドです。お気になさらなくても結構です」
 リーファはできるだけ淡々と言った。当然のことながら、羞恥を隠しているわけではない。年頃の男性にそう言われて時めく程可愛くはないリーファは、嫌悪を隠しているのだ。
「思い出したのですか?」
 ローリアの白い横顔に、薄らと影が差している。リーファは、それを見て、僅かに表情を歪める。
 バルベロが優しい春の日差しであれば、エレカは冬の月だった。どこか寂しげで、そして美しい。何かに頼らなければ、生きていけない、貴族らしい貴族の女性。
「何のことでしょう?」
 リーファは恍けて見せた。しかし、それはほとんど意味を為さなかった。
「取り引きをしませんか?」
 夜の中の笑みは妖艶で、ゆらりと差し伸べられる手は、艶かしい。
「今さら?」
 リーファは、本音が出てしまい、ぎくりとしたが、その必要はなかった。
「侵入者です。警備の者は、全てやられました」
 突然入ってきた報せ。
 そう、今夜は、満月。

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