8

なよ竹のかぐや姫


「私、何もしていない」
 少女は冷たい石床を蹴飛ばされるようにして前へ進まされていた。しかし、少女は自分を蹴飛ばす大人の男たちを、鳶色の目で睨みつけていた。
「黙れ、シャーナの分際で」
 少女は、それに対して何か言うことはなかった。ただ、冷たい鳶色の目をすっと細めた。
「うわー、気持ち悪い。触ってしまった」
 蹴る時に、「誤って手で触れてしまった」男の一人が、耳障りな高い声で言う。
 そう、このとき魔術を使っておけば良かった。しかし、少女は使わなかった。
 自分は何もやっていない。だから、罪を問われるなんてことはない、と信じていたのだ。少女は、まだ十三歳だ。少女は、夢を見ることが許される。正義という夢を。
 そして、シャーナの牢に入れられた少女は、気の狂った者たちのいる中で、はっきりと言った。
「大丈夫。誰も死刑にはならないよ。食べ物は脅してでも持って来させる」
 正気の者も、皆飢えており、気力も生命力もなかった。その中で、魔術師の少女はしっかりと立っていた。
「おい、お前、生意気な口叩いているんじゃねーよ」
 囚人の一人が、少女の髪を鷲づかみにして、何度も何度も顔を殴った。
 少女は殴られても微笑んでいた。血が流れても何も言わなかった。
 自分が間違っていたと思えば、素直に謝り、弱者には見返り無しに救いの手を差し伸べる。誰もが少女を、素晴らしい大人として見るようになった。そう、誰もが。
 強く気高い少女。彼女はいつだって微笑んでいる。常に優位にある。優位になくては、シャーナの少女は、十年の時を生き延びることができなかっただろう。
 少女の牢から死刑囚は出なかった。しかし、少女が脱獄した時、その牢には生きた者は一人もいなかった。

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