7

なよ竹のかぐや姫


「セイリアで思い出したか」
 そう言った剣士の顔は、決して明るくは無かった。
「嬉しくないんですか?」
 ビアンカが尋ねても、シュウは曖昧に返事をするだけだった。ただ、ぼんやりと月に目を向け、漆黒の瞳を不快そうに細めるだけだ。
「リーファが変です。シュウ、何かやらかしましたね」
 僅かな間があった。シュウは、何かを考えるように、すっと目を閉じてから、ゆっくりと言った。
「何かやらかしたのは、俺じゃねーよ」
「やはり、何かあったのですね」
 すぐに食いつくと、用意してあったかのように、すぐにシュウは言った。
「お前が想像できるようなことではないから、安心しろ、幼児趣味」
「誰がですかっ」
 手前以外にいねーよ、と呟きながら、シュウはゆっくりと息を吐いた。
「だが、リーファとゆっくり話をする必要はある」
 シュウは、ビアンカの方を見ていない。ただ、ぼんやりと空を見ているだけだった。それは、意図的なものではなさそうだった。ビアンカと話しながらも、何か別のことを考えているようだった。
「何もしないで下さいよ」
 ビアンカは声を低くして言った。しかし、その声の低さは、シュウには敵わない。
「手前、妙に突っ込んでくるなぁ」
 シュウの声が、僅かに高くなった。そして、シュウは漸く、ビアンカを見た。ぼんやりとした漆黒が、ビアンカを映していた。
「当たり前ですよ。あなたのような歩く危険物が……」
「手前なぁ……危険物はあいつだぜ」
 さらりとシュウはそう言った。しかし、すぐに顔に、やってしまった、というような表情が浮かぶ。ビアンカは、しめた、と思い、すぐにシュウに尋ねる。
「どういうことですか?」
「本人に聞けよ」
 シュウは、投げやりに言うと、俺は寝る、と立ち上がり、少し離れたところにある大木に凭れ掛かった。
 ビアンカは、溜息を吐いた。一体何があったのか。そう思いながら、「何かがあった」白亜の王宮の方向に目をやった。



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