5

なよ竹のかぐや姫


 そこは、薄暗い閨だった。薄暗い閨に女が一人。主はいない。もう何週間も、主はこの部屋を空けている。
 その女の声は、酷く儚かった。生まれつき、というのもあるが、そういう風に育てられていた。一人では生きていけないように、男の心を掴むように、女は育てられてきた。
 生き生きとした笑顔を浮かべ、大地を駆け回る彼女と違って、女は静かに生きてきた。
「私はあなたのことをお慕い申し上げておりますのに……」
 女は最初から分かっていた。自分は世継ぎを生むだけのために傍に置かれている。心を寄せる男は最初から、自分など見ていない。
 主は、幼馴染の女が裏切った時、激怒した。彼女を地下の独房に入れた。しかし、彼は毎日のように彼女の元に通った。
 彼女が裏切ったという事実は、主と彼女の間を切り裂いたわけではなかった。主の足枷を無くしただけだったのだ。もう、主は彼女しか見ることはできない。
 彼女は裏切った。でも、自分は主を慕っている。しかし、主の心には、彼女しかいない。主の中に僅かにあった女の存在も、彼女は全て消し去ってしまった。
「何故、あのお方を……」
 それが、女、エレカが漏らした、最初で最後の恨み言だった。



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