5

覇王セフィリス・サラヴァン


 神は、ぐにゃりと口元を歪めて笑った。そして、勝ち誇ったように冷たい目を輝かせながら、銀のような白い手でリーファの頬に触れる。リーファは振り払おうとしたが、それより先に、白い掌が喉を覆い、そのまま、壁に押し付けられる。
「そうだ、お前は誇り高い。常に全てを見下していたのは、お前だ。お前は、あの王子に同情した。同情することによって、自分を優位に立たせることができた」
 リーファは、何も言い返せなかった。
「我が身が可愛いだろう。そう、それでこそ人間だ。お前は、あの男と同じだ」
 美しい声である。それ故、残酷なほどに、よく響いた。
「あの男ならば、こんなヘマはしなかっただろうがね」
 それと同時に、背後から強い衝撃が襲い掛かってきた。神に蹴られたのだ。そのまま、階段の方へ突き飛ばされたリーファは、点まで続く段の一つに何とか掴まる。
 階段の下は、闇に包まれていた。空だけが、寒々しいほど華やかだった。
 リーファは、腕の力だけで何とか体を持ち上げようとしたが、それより先に、神がリーファの手を足で踏みつけた。リーファは、思わず苦痛の声を上げたが、すぐに歯を食いしばって耐えた。
 しかし、リーファが掴んでいた段は消えた。リーファの体はただ落下していくだけだった。
「私は、セフィリス・サラヴァンの魂を持って生まれたことに、一欠けらの誇りも持っていないわけじゃない」
 それは戦意の表明である。
 リーファは噛み付いた。それが悪足掻きだと分かっていた。それでも、リーファは言い切った。
 リーファには力がない。あの覇王のような聡明さも強さもない。セフィリス・サラヴァンがリーファに与えたのは、生きる意志と、魔術の力、そして呪いのような想いだけだった。一体その中の何が、この絶対なる神に対抗できる物になろう。
 しかし、リーファが、セフィリス・サラヴァンの魂を持っていることを、真に誇りに思えば、道は拓ける。そうやって自分を肯定することだけが、リーファが唯一できることだ。
 そう、何かにしがみ付かなければ、生きていけないリーファにとっては。
「ごめんね、シュウ」
 自分よりもシュウの方が、ずっと何かに囚われている、とリーファは思っていた。自分の方が、ずっと自由だと思っていた。しかし、それは違った。
 リーファ・シャーナ・シャライゼの体は、堕ちていった。しかし、至高の闇は、未だ堕ちない。否、堕ちることができなかった。


第一部完




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