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覇王セフィリス・サラヴァン


 世界中の文化が融合された美しい城。統一感が無いと言ったらそれで終わりだが、この城の主______名は別にあるが、多くの者がセフィリス・サラヴァンと呼ぶ男は、そんなこの城を気に入っていた。
 そんな城の玉座で、セフィリスは、人文学書と歴史書を片手に、文字と言語の問題をどう解決するかを考えていた。話者の少ない言語の保護は、難しい問題だ。
 セフィリスが、そんなことを考えていると、扉が開いた。
 扉を開けた男は一礼すると、長衣を引き摺って入り、セフィリスを見上げた。セフィリスが促すと、再び一礼してから、喋りだした。
「少しずつですが、フィリス人も職に就き易くなっているようです」
 フィリス人とは、文字と武器を持たなかったが故に、農耕民族に、奴隷として扱われていた民だ。
 それをどうにかしようと、色々と政策を打ち出した効果が表れてきているらしい。
「陛下、嬉しそうですね」
 腹心の部下であり、有能な宰相でもある男が、笑みを零した。セフィリスは、それに頷くと、口元に笑みを浮かべた。
「次は教育だな」
 経済的困窮は、教育の機会を奪い、更なる貧困を生む。その連鎖を止めるのには、教育の保障が必要だ。
 そして、宰相は、調査書を置くと、出て行ってしまったのだが、静かにはならなかった。出て行く宰相と入れ違いに、鮮やかな金色の髪に甲冑姿の女が入ってくる。女は、恭しく、敬礼をしてから、畏まった様子でセフィリスの前まで歩いてきた。
「どうした? バルベロ」
 いつもは、扉を開けると、ずかずか入ってくるのに、と続けようとしたが、それよりも先に、バルベロが喋りだした。
「逆賊討伐を完了いたしました、“陛下”」
 途中までは真面目に言っていたが、最後まで続かなかったのか、くすくすと笑い出す。
「何か、陛下って自分で言っててもぴんと来ないや。セイリアだもんね。あのセイリアが、一人称を「私」にして喋っているところ見たときに、まだ噴出しそうになるんだよね」
 それは流石に失礼だろ、とセフィリスは思ったが、何も言わなかった。
「それと、最近ずっとそこに座ってるでしょ。たまには剣振らないと、私に負けちゃうよ」
「あーはいはい」
 セフィリスは、だるそうに言いながら、読んでいた本を置くと、立ち上がる。
「ほら、王様なんだから、しゃきっとしないと」
 バルベロは、ふわりと笑った。聖騎士出であり、女であるため、嫉妬や蔑みの目で見られているのは、セフィリスも知っている。それでも、バルベロは影一つない顔で笑う。
 彼女の笑顔が、世界の頂点に立つ男の最も大きな支えであることは、その男自身も分かっていた。



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