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覇王セフィリス・サラヴァン
目が覚めたら、隣で眠っていたはずの女はいなかった。
シュウは、日の差した窓を見ながら、寝過ごした、と思い、舌打ちした。すぐ隣に手を当てると、まだ生暖かい。起きてからそれ程時間は経っていないということだ。
リーファのいるところは分かっている。シュウは、刀を片手に、宛がわれた部屋から飛び出した。
まだ夜が明けきっていないので、王宮の廊下には誰もいない。だから、シュウは誰にも会わずに大聖堂に辿り着くはずだった。
しかし、それは叶わなかった。
「ウェルティア」
廊下の壁に凭れ掛かり、その男はシュウを見て笑った。そして、立ち塞がるように廊下の中心に立つ。
「退け」
シュウは足を止め、その男を睨みつけた。
「謁見を望んでいたのでは?」
現王は薄らと笑みを浮かべていた。
親子なのに関わらず、一々謁見という言葉を使ってくることが腹立たしいが、今更だ。
「それは後だ」
リーファのことを思えば、こんなところで油を売っている暇はない。
「そういえば、女魔術師を一人連れてきた、とヴァルシアが言っていたな」
王が浮かべた笑顔は異様に嫌らしかった。
「斬るぞ」
シュウは低い声で言った。
「ウェルティア、私を殺せば、お前が知りたいことも知ることができまい」
王は、粘着質のある声で、さらりと言う。
「教えてやろう。お前の母の祖国を」
そして、口元をぐにゃりと歪めて笑った。