「あ、いたいた!侑士ー!跡部が呼んでるぜ」
「ん?なんや跡部が?」
いつもと違った戦法で
放課後、いつも通り部活に勤しむ俺ら氷帝テニス部は他所の学校よりも部員が多い
早く部室で着替えて練習場所を確保しないと、広々と使える大きなスペースは早々に取られてしまう事もある
まあ、レギュラーメンバーはだいたいコートを使えるからあんまり焦る必要もないんやけど
そんなコートの半面で素振りをしていた所に俺の相棒が赤い髪を揺らしつつひょっこり現れた
…今日は政治の授業で赤点取ったから、小テストしてから来る言うてたのにもう来てるやんか
「…ああ、跡部が呼んでるんやったな」
「じゃ!伝えたからな、早く行けよ!」
「岳人どこ行くん?」
「ちょっとな!じゃな!」
元気のいい奴や、ニッと笑って嵐の如く去っていった
にしても、跡部に呼ばれるなんて…俺なんもしとらんと思うんやけどなあ?
ぐいと汗を拭って、きっと今日も高らかに鎮座しているであろう部室へと向かった
「……よし、行ったな」
「さすがの侑士でも驚くんじゃねえ?」
「どうでしょう?忍足さん、意外と手強いですからね…」
「あ!宍戸さーーん!」
「「「シーーーッ!!!」」」
部室へ去っていった侑士の後ろ姿をコソコソと見守っているのは、こちらも同じく氷帝テニス部のレギュラーメンバー、宍戸と岳人と日吉。
そんな怪しい3人組みを見つけ、空気も読まずに大声を出して駆け寄ってきた長太郎だったが、すごい勢いで振り返られ同時に3人に怒られたので若干ビビっている
みんな顔が怖い
「す、すみません…宍戸さん達何してるんですか?」
「大きい声出すんじゃねぇぞ長太郎」
「…忍足さんには気付かれてないみたいです」
「ふぅ、危ねぇあぶねぇ…これはな、侑士をびっくりさせてその顔を写真に収めようっつー企画だぜ」
「びっくり…?」
3人揃ってニヤニヤと…やけに楽しそうだったから何してるのかと思えば
でも忍足さんの驚く顔は、俺も…ちょっと見てみたい
「鳳も知ったからには協力するんだな」
「どうやってびっくりさせるんですか?」
「跡部にも協力してもらっててな…お、そろそろいい頃か。よし行くぞ!」
「「おー!」」
「え、えっ…!?」
そのびっくり企画の内容は教えてもらえぬまま、巻き込まれてゆく長太郎であった…
いっぽうその頃、跡部の元では…
ガチャリと部室のドアを開けば鼻に抜けるアールグレイの香り
「よく来たな忍足」
「なんや跡部、岳人に呼ばれたんやけど」
悠長に足を組んで陶器のカップに口を付ける
部活中に部活してない部長なんて多分全国探してもそうおらんと思うで、跡部。
「フッ…貴様ら最近調子良くねぇみたいじゃねーの」
「…不調な時もあるやろ」
無駄に綺麗な所作でティーカップに注がれた紅茶を飲む跡部に若干腹立ちながらも、何が言いたいのか話を続ける
「で、なんや不調やからレギュラーから外すんか?」
「いいや、それは違う」
「?」
相変わらずの余裕ぷりに何だか圧倒されそうになる
せや、そんならこっちも心を閉ざして応戦や…!
「氷帝の天才をレギュラーから外すわけにはいかねぇ。ただダブルスで失点続きじゃあ監督の堪忍袋もそろそろ限界だろう」
「……」
「そこでだ…今日でお前ら忍足向日ペアは解散!お前はシングルスに移行だ!いいな!!」
言い切ったと同時にバン!と勢い良くドアが開いて眩しいフラッシュをバシバシ浴びる
カメラを向けてるのは宍戸と岳人、ピロリーンと何気に携帯のカメラで撮影している鳳、こらこらやめーや
「…自分ら何してん」
「やっぱり駄目でしたね」
「くそくそ侑士!ちょっとぐらいは驚けよ!」
「…うわっ!真顔の忍足さん撮れちゃいました宍戸さん」
「すぐ消せ長太郎!呪われるぞ!」
「呪わんから取っておいてもええで鳳」
この状況からだいたいは読めたが、つまらなそうな顔をしている部長様
なんや、嫌な予感する……
「…樺地」
「ウス」
「え、何やのこれで終わりじゃないん!?」
パチンと指を鳴らしたかと思えば、いつの間にか控えていた樺地が俺の眼鏡を奪い手早く目隠しをつける
樺地、これでも俺先輩やで…!
「さあ、ショータイムの始まりだ!」
「え、こわ!」
暗闇の中、跡部の高らかな笑い声が部室に反響して響き渡った
「よし、外していいぞ忍足」
「………」
その後、椅子に座らされヘッドホンを付けられ、何かやってるのは分かるがそれが何かわからない状況にされて何分…いや何十分経った頃だろうか
ようやく自由にさせてくれるようだ
するりと目隠しを外して眼鏡をかけ直す
「え」
「せーの!」
「「「「「「「誕生日おめでとう(ございます)!!」」」」」」」
パンッと派手な音と共にクラッカーから紙テープが飛んできて頭やら体やらに巻き付いた
目の前には綺麗に盛り付けられた鰆の生寿司と多分あれはかす汁、奥にはケーキまでご丁寧に並べられている。他にもスナック菓子や飲み物も沢山だ
「お、おおきに…」
「あーん?聞こえねぇなあ!」
「…ほんま、ありがとおな」
内心驚きつつ、ズレた眼鏡を上げ直す
「遅くなって悪かったな侑士」
「おめでとさん忍足!」
「誕生日くらいは下剋上しないでおいてあげますよ」
「マジマジすっげー!食べ物いっぱい!」
最初は何やと思ったけど、もしかしなくても祝ってくれるためのカモフラージュやったんか?
みんなのしてやったぜ顔を見ると自然と笑みが浮かんだ
「…かなわんなあ」
その後レギュラー陣だけでなく、部員全員さごしき寿司とかす汁を味わいお祝いの言葉を言って今日の部活という名の急なお祝いパーティはお開きになった
帰宅し自室に戻った
皆に持っていけと無理やり渡されたスナック菓子をテーブルに置き1日を振り返ってみる…今日は何だかいつもより早く時間が過ぎていった気がするのは、多分気のせいではないんだろう
一息つこうとベットに腰掛けるとピカピカと赤く点滅した携帯がメールの受信を知らせる
「岳人か」
メールを開けばいつの間に撮られていたのか、今日のパーティ写真が何枚も添付されている
『侑士のびっくり顔は撮り損ねたけど、最高な顔は撮れたぜ!』
メールの文面から岳人のあの自信満々な顔が浮かぶ
「………もしもし、岳人?」
『お、侑士!あ…日付け変わっちまうからもっかい言っておくな!…』
Happy Birth Day!
おわり。
→おまけ
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美雨ちゃんお誕生日おめでとうございました…!貴女に捧げます、はぴば!
忍岳を書くのもうん年振りなので、色々おかしくても目をつむって楽しんでもらえたら嬉しいです…というか、忍岳のつもりだったんです!でも気が付いたらみんな出張ってきてギャグにひた走りそして終着してました。ごめんなさーい!
でも本当に楽しかった…書いた本人は楽しかったので文章で伝われ〜〜!!
七斗*16.1024
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