買い出しに出かけた先で見かけた白い姿、幸せそうに笑う人たち。
「結婚っていいですよねぇ」
「何でそれをオレに言うんだ」
「別にセンパイと結婚したい訳じゃないですけど―。あっ花嫁衣装きてくれるならいいですよ?」
「馬鹿か」
「やぁん、後輩に優しくしてくださいー!」
 最早返事すらなくしっしと手を振られる。口は決して良いとは言えない彼が、実のところ誰よりも優しいことを知っているから、わざと左腕に絡み付く。
「離せ引っ付くな暑苦しい!」
「はーなーれーまーせーんー」
 そのまま彼が持っている荷物を奪って走る。案外重たいそれに、やっぱり元前線組は違うなぁと思いながら少しふらついた。
 赤信号で立ち止まると、直ぐに彼が追いついて来て、腕を突き出される。
「オラ、返せ」
「こんくらいへっちゃらなので、むしろ手を繋ぎたいです」
 今度は返事代わりに頭を小突かれた。奪い取ろうとした手から荷物は死守する。
「いやでもホント、結婚って羨ましいです」
「テメェがそんなこと言うなんて意外だな」
「だって幸せそうじゃないですかー。皆笑ってるし、祝ってくれるし」
 頬を染めて柔らかく微笑む花嫁の姿を思い出す。きっと彼女は今一番幸せな時なのだろう。
「いいですよねー。幸せって何にも見えなくなるんですよねぇ。痛いことも怖いことも」
 ばちりと合った視線に含まれたものは見えなかったことにして、続けて笑う。
「でもボクはしばらく結婚いいかなぁって。だってセンパイとかかわいい後輩とかとべたべた出来なくなりますしー。まぁまず相手居ませんけどね!」
「……虎市ならいるだろ」
「従姉ですからね!?」
「従姉弟同士は結婚出来るぜ」
「えぇえやめてください冗談でも想像しただけで寿命が縮みました」
 どうも従姉の話になると歩が悪い。ニヤリと笑う彼に、年相応な悪戯心もあるのだと脱力。
「一気に疲れたので荷物持ってください……」
「じゃあ手は繋がねぇからな」
「えっ繋いでくれる気あったんですか!」
 がばりと彼の方を向くと、生温い目を向けられる。
「テメェ本当に阿呆だな」
「阿呆って何かあれです、馬鹿より傷つきます!」
「そーかよ」
 さっさと帰んぞ、と信号が青に変わってスタスタと歩き出した背中を追いかける。
 色んな物に目隠しをしてしまうような幸せも良いけれど、今の日常が少しでも長く続けばいいなんて、少しだけ何かに祈りたくなった。




二ツ木カイナさん(http://www.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=53130925&mode=medium)




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